『グリーンブック』はアカデミー賞に相応しくなかったのか? 映画館で観て感じた率直な感想 | VODの殿堂

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『グリーンブック』はアカデミー賞に相応しくなかったのか? 映画館で観て感じた率直な感想

   
 

「本年度 アカデミー賞最有力!」
毎年、年が明ける頃にはこの言葉をよく見聞きするようになります。

2019年(2018年度)の第91回 アカデミー賞では作品賞にノミネートした8作品中3作品、『グリーンブック(原題:Green Book)』『ブラック・クランズマン(原題:BlacKkKlansman)』『バイス(原題:Vice)』でその謳い文句が見られました(『バイス』は「本年度アカデミー賞、まさかの超絶★大本命!」でしたが)。

そして、栄えある作品賞を受賞したのが『グリーンブック』です。

アカデミー賞の授賞式は2019年2月24日に行われ、本作の日本公開日は3月1日なので、公開時点では受賞が決定している状態となりました。

タカノツメは公開直後に観に行くつもりでしたが…

IMAX限定で『スパイダーマン:スパイダーバース』が3月1日(金)~3日(日)の3日間限定で先行上映されていたので、そっちを優先してしまいました…!

いや、観たかったんですよ。先行となったら、それは…ねぇ?(しどろもどろ)

とはいえ、やはりアカデミー賞受賞作なので、一週間遅くなっても観ないとね。ということで、遅ればせながら観てきました。

あ、アカデミー賞信奉者というわけではありませんよ? さまざまな利権だとか大人の事情が絡んでいるのは重々承知してますので(でも、やっぱり安心して見れる作品が多いです)。

意外と知られていない?アカデミー賞
基本はアメリカ映画を対象とした映画賞。
作品の選考対象も「1年以内にロサンゼルス地区で上映された作品」と選考対象は極めて限られている。

概ね好評、しかし批判も…

『グリーンブック』は黒人ピアニスト、ドン・シャーリー(博士号などを持っていることからドクター・シャーリーと呼ばれることも)とその用心棒として雇われたトニー・バレロンガ(Vallelongaなので、ヴァレロンガが適切な表記になるが、字幕ではバレロンガとなっている。またの名トニー・リップ)の実話に基づく物語です。

実際に二人がアメリカ南部でのコンサートツアーを行った話を基に作られているわけですが、本作のテーマはミュージシャンの苦悩などを描くのではなく、人種差別がテーマとされています。

舞台となるのは1962年、まだ人種差別が残る時代です。

トニ―は黒人であるシャーリーに雇われて旅をすることになりますが、物語の冒頭に黒人の作業員が自宅を訪れ、彼らが使用したコップをトニーが捨てるというシーンがあります。

これはトニーが黒人を差別しているというのを表す重要なシーンであり、物語のテーマ自体もこの行動で表しています。

ファレリー監督は「このシーンがなければ、何の意味もない映画になったと思う。このシーンから始めるのはつらかったけどね」と語っています。

人種差別やLGBT、障害者などセンシティブなテーマを扱った映画は多々ありますが、『グリーンブック』もまさにそこに焦点を当てた作品となっているのです。

『グリーンブック』と一緒にノミネートされた『ブラック・クランズマン』も白人至上主義集団として知られるKKK(クー・クラックス・クラン)に黒人警官とユダヤ人警官が潜入捜査するという作品で、人種問題をテーマとして扱っています。こちらも『グリーンブック』同様、実話に基づく作品。

『グリーンブック』が評価される一方で批判されるのはいくつか理由があります。

まず、『ブラック・クランズマン』のほうが現在のアメリカの社会問題を描いているという声。

「マイケル・ブラウン射殺事件」(2014年8月9日にアメリカ合衆国ミズーリ州ファーガソンにおいて、白人警察官が18歳の黒人青年マイケル・ブラウンを射殺した事件)のように白人警官が黒人を射殺する事件や白人による黒人への暴行事件、ヘイトクライムも増加しているというのが現在のアメリカの姿です。

『ブラック・クランズマン』はシリアスに描かれており、作中に出てくる白人も決していい人としては描かれていません。

対して、『グリーンブック』は言ってしまえばのほほんとした作風であり、「黒人を白人が救う救世主(white savior)」として描かれています。つまり白人が気持ちよく見れる作品になっているという声もあるのです。

事実、人種問題を扱っている作品ではあるものの、作品は白人であるトニーを軸にして動いていきます。

最初は黒人嫌いだったトニーもシャーリーと旅をしていく中で接し方が変わっていくさまや、シャーリーが酒場でトラブルに巻き込まれた時に助けにいくさまなどはまさに白人が救世主という描き方に見えます。

また、『グリーンブック』は1990年の第62回に作品賞を受賞した『ドライビング Miss デイジー(原題::Driving Miss Daisy)』に似ているということが兼ねてから言われていました。

『ドライビング Miss デイジー』は運転手と主人の立場が逆ですが、ユダヤ系未亡人とアフリカ系運転手の交流をユーモラスに描いた作品なのです。

この年のアカデミー賞では、『ブラック・クランズマン』の監督であるスパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング(原題:Do the right thing)』が脚本賞としてノミネートしています。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』は公開前から絶賛されていた中、作品賞にノミネートすらされませんでした。

一方の『ドライビング Miss デイジー』は決して悪い作品ではないものの、人種問題をリアルな洞察が欠けている作品という中での受賞だったのです。

その時は作品賞と脚本賞と垣根が違いましたが、今回は似たような設定の『グリーンブック』と直接対決とあり、同作の受賞が発表された際にはスパイク・リー監督の怒りは爆発。カメラにこそ映らなかったものの、怒りを露わにするかのように両手を挙げ、会場を無言で立ち去ろうとしたそうです。

その後のバックステージでのインタビューでは、「誰かが誰かを運転するたびに私は負けます(Every time somebody is driving somebody, I lose!)」と語っています。

また、『ブラックパンサー』の主演チャドウィック・ボーズマンも、不満をあらわにしています。

※LMAO:日本でいうところの「ワラ」や「ワロタ」など。

ちなみに、33年のキャリアがあるスパイク・リー監督ですが、アカデミー賞ノミネートは29年ぶりでした。

製作には重要人物が関わっている

『グリーンブック』の製作にはある人物が関わっています。トニー・バレロンガの息子のニック・バレロンガです。

本作では実の息子である彼が脚本に携わっています。先日レビューを書いた『ファースト・マン』も主人公のニール・アームストロングの息子たちが協力していますが、こちらは脚本などには携わっていないので、『グリーンブック』のほうがより深く関係者が関わっていると言えます。

ニックは父であるトニー・バレロンガが実際にどういう人物だったかといったことはもちろんのこと、シャーリーに行ったインタビューの録音テープやメモ、作中でも重要なシーンとなる手紙を何通も資料として提供しています。それにより、実際の旅の内容を忠実に再現しているのです。

この手紙のシーンはトニーが学がないことがハッキリとわかるシーンであると同時に、笑いのパートでもあります。

トニーのぶっきらぼうな手紙を見たシャーリーが呆れ果て、口頭で手紙の内容を伝える、つまりシャーリーが言ったままのことをトニーが書くというシーンが何回か登場します。

荒れくれものがいきなり詩人になる。ただシャーリーが詩的な手紙の内容を読み上げ、それをトニーが書くというだけのシーンですが、このギャップに劇場内ではくすくすと笑いが起こりました。もちろん、自分もくすり。

こういう軽いコメディタッチに仕上がっているのも、お下劣な内容とはいえ、コメディ映画を多く製作してきたファレリー監督ならではです。

コメディシーンと言えば、以下の予告のシーンもなかなか笑いが起こったシーンです。予告で公開しちゃっていいの!? という内容で、観る前にこれを知らなくてよかったです。先に見ていたら、きっと笑いが半減しちゃったので。

ちなみに、本作ではツアーは8週間のものとして描かれていますが、実際には1年半ほどで、この内の10月からクリスマスイヴまでがこの期間に当たります(二人の旅の最初のパートだったそう)。

本作を観ただけで真の評価はできるものではない

既に書いたように、本作は人種問題を扱っているだけにその描き方を批判する声もありました。

数々の社会的・政治的問題を題材として作品を制作してきたスパイク・リー監督や自身が黒人であるチャドウィック・ボーズマンが「黒人を白人が救う救世主(white savior)」的な描き方に怒りを覚えるのは当然のことなのかもしれません。

そういった中、概ね高評価を得ているのも事実です。

あくまでも個人的な考えですが、評価をしているのは白人とそもそも人種問題を知らないあるいは関心がない層なのではないかと思います。

かくいう自分も後者側の人間で、人種問題はほとんど知識がありません。

yahoo!映画のコメントを見ても、正直そういった観点を持って感想を述べている人は皆無です。

この人たちをディスっているというわけではなく、キャプチャした日にたまたまトップページに掲載されていたコメントです。

ただ、タイトルを見るだけでも、人種問題のことを考えるとやっぱり違うよな…と感じてしまいます。

などというと偉そうですが、先ほども書いたように自分も人種問題に関してはまったくですし、どちらかと言えば書かれている感想のようにシンプルに映画として面白かったという立ち位置です。

そうは言っても、さすがに『グリーンブック』宣伝隊長なんて公式サイトに載せられているふたりがこのコメントはどうなの?というのは思います(これはディスっています)。本質からまったくズレている。観ないで名前と顔だけ貸したんだろうなーとすら思えます。

本作を観るにあたって以下を知っていたという方は意外と少ないのではないでしょうか(もしかしたら、観終わってもわからずじまいの方もいるかも…?)

グリーンブック
わかりやすくいうと、黒人が快適に旅をするためのガイドブック(1936年から1966年まで毎年改訂され発行)。本作のタイトルでもあり、作中でもわかりやすく解説されている。


ジム・クロウ法
1876年~1964年に実際にあった法律。人種差別的内容を含むアメリカ合衆国南部諸州の州法。ふたりが旅したのもこの時代であり、旅をしたのもアメリカ南部。


サンダウン・タウン
ジム・クロウ法に関わる。日没になったら黒人は外に出てはいけないという決まりごと。1960年台初頭まで続いた。

車を止めた警察官と口論になり、トニーが殴るシーンに関わる。ちなみに、これはフィクションではなく、実際にトニーは警察官を殴ったとのこと。

これぐらいは基礎知識レベルだと思うのですが、少なくとも私はこの知識を持ち合わせていないで『グリーンブック』を観ました。

こういうことはわからない人間が人種問題についてアレコレ言っても何の説得力もありません。

確かに人種問題を扱っているにしては白人寄りの描き方がされている点が気にならなかったかというとそんなことはありません。

他にも人種問題を取り扱った作品を見てきましたが、それらから比べると驚くほど黒人に対する差別の描き方がライトです。

例えば、シャーリーが逮捕され、牢屋に全裸で繋がれているシーンがありますが、描写としてはそれだけ。キツイものだと、そこに至るまでに乱暴なシーンが描かれるものです。

そういったことを考えると、踏み込んだ描き方をしているかと言われると、確かに首を傾げるところはあります。そこまで人種問題に踏み込んでいないといった見方も正直できます。

この作品を真に評価するには人種問題に日頃から接していたり、知識がある人だけでしょう。もちろん、そういった人たちの中でも良いか悪いかに偏らず、賛否両論になると思いますし、そういった人の意見が正解とは思いません。

なんだったら、本作を観たことによって人種問題に関心が出る人だっているかもしれないわけです。

見方を変えれば重いテーマをそこまで構えることなく観れる作品とも言えます。実際、これまで見てきた人種問題を取り扱う作品としては、気持ちが重くなったりすることなどもなく観れたので、知識のあるなし関係なく、まずは観てみることをオススメします。

人種問題と言えば…

人種問題、とくに黒人の問題というと思い出されるのは『ちびくろサンボ』(”ちびくろ・さんぼ”と表記する出版社もある)です。

1988年に「黒人差別をなくす会」という私設団体の抗議により、出版社が自主的に絶版にし、書店から回収されることになった絵本です。私もですが、30代半ば以上であれば子どもの頃よく読んだ絵本のひとつとして記憶にあるはずです。

そんな『ちびくろサンボ』ですが、なぜ絶版になったのか…

まず、そもそもの話をすると、同書はアフリカ系黒人の子どもとして描かれているのが一般的ですが、原作はインド人の子どもです。

元々は軍医であった夫とインドに滞在していたスコットランド人、ヘレン・バンナーマンという人が自分の子どもたちのために書いたものだったのですが、いつしかアメリカに渡り、勝手に改編されたのです(いわゆる海賊版)。

同書に出てくるトラは誰もが記憶にあると思いますが、そもそもアメリカ大陸にはトラがいないので、アフリカ系黒人がトラと出会うという設定には矛盾があるわけです(当時はトラを見たことがある人が少なかったため、改編されずにそのまま残った)。

「サンボ」という名前はインドでは一般的に付けられる名前のひとつなので現地であれば何一つ問題ないのですが、アメリカでは黒人に対する蔑称として使われています。

「主人公の黒人の子どもを必要以上に真っ黒にするのは差別的だ!」などという浅い問題ではなく、実際にはもっと根が深い問題なのです。

記憶に新しいもので言うと、2017年12月31日に放送された『ガキの使い!大晦日年越しSP絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時!』で、はまちゃんこと浜田雅功氏がエディ・マーフィーの格好をしたことで大炎上しました。黒人に扮する「ブラックフェイス」は海外ではタブーとされているためです。

番組制作側が黒人を笑いを取るのに使ったことが問題となった事例です。

【訳】黒人だというのは、オチや小道具じゃない。ジョークが必要? もっといい作家を雇って。黒人キャラが必要なら、日本語を話す黒人俳優を雇って。何人かいるから!

この問題に関しても賛否両論で、

  • 日本人はそもそも黒人の奴隷制度なんかしたことがない。
  • そういった歴史を持つアメリカの基準になぜ合わせる必要があるのか(アメリカの基準が世界のスタンダードではない)。
  • 細かいディテールにこだわっており、エディ・マーフィーに敬意を表しているということがわからないのか。

といった意見から、日本は人種問題について無知すぎる、といった意見までさまざま。

また、ブラックフェイスではなく、その逆「ホワイトウォッシング」も最近では問題になりましたね。

そう。日清食品がテニスの大坂なおみ選手を起用したアニメの広告です。

現在、CMは消されているので見ることができませんが、その時の映像の一部と実際の大坂選手を比較したものがこちら。

どう考えても…ねぇ…

日清食品は「ホワイトウォッシュという意図はなく、大坂選手側にも確認済みだ。」と発言しましたが、実際にはマネジメント会社に確認しただけで、本人には話が通っていなかったようです。

大坂なおみ選手は以下のように語っています。

I’ve talked to them. They’ve apologised,I’m tan. It’s pretty obvious. But I definitely think that the next time they try to portray me or something, I feel like they should talk to me about it.

【訳】関係者とも話をしたし、謝罪の言葉もありました。私は褐色(TAN)。それは明白。故意に白く描こうとしたわけではないと思いますが、次に私をモデルにしてなにかを描こうとするなら、私に相談するべきだと思います。

また、大坂選手と言えば有名なのがこの風刺画。

これはオーストラリアの新聞に掲載された挿絵で、主役は画面手前のセリーナ・ウィリアムズ選手です。セリーヌ選手がステレオタイプの黒人として描かれて差別と騒がれましたが、これに加えて奥にいるのが大坂選手と見られ、小柄で金髪色白な女性として描かれたことで問題になりました。

オーストラリアの新聞の風刺画はやりすぎ感は否めませんが、日清のCMは本人に近い肌の色で描かれていたら、おそらくそれはそれで問題になっていただろうなと思うだけに難しい問題です(どちらの肌の色にせよ、そもそも本人が了承していたら問題にならなかったと思いますが)。

人種問題を学ぶならこの映画

『グリーンブック』以外にも人種問題を扱った作品は多数あります。

その一部を今回紹介します。『グリーンブック』を観て興味を持った、あるいはいまから観るので少しでも知識を入れておきたい、という方は時間がある時に見てみてはいかがでしょうか。

マルコムX(1992 原題:Malcolm X)
『ブラック・クランズマン』のスパイク・リー監督作品。
黒人解放運動家のマルコムXの一生を描く作品。


グローリー/明日への行進(2014 原題:Selma)
史上初のキング牧師。キングの実際の演説の権利はドリームワークスとワーナー・ブラザースが権利を取得しているため、実際の演説は使われず、新たに監督のエイヴァ・デュヴァーネイによって書き起こされた。


大統領の執事の涙(2013 原題:Lee Daniels’ The Butler)
第34代大統領~第40代大統領まで、34年間計7人の大統領に執事として仕えたユージーン・アレンをモデルとしている。

最初に使えた第34代大統領、ドワイト・デビッド・アイゼンハワーは1890年10月14日~1969年3月28日に大統領を務めたので、『グリーンブック』よりも時代はかなり後になる。


リンカーン(2012 原題:Lincoln)
歴史上最も有名な大統領と言っても過言ではないリンカーンの最後の4ヶ月が描かれている。


それでも夜は明ける(2013 原題:12 Years a Slave)
自由黒人ソロモン・ノーサップによる奴隷体験記 “Twelve Years a Slave(1853)”を原作としている。

ノーサップがワシントンD.C.で誘拐されたのは1841年なので、こちらも『グリーンブック』の時代よりかなり後の話になる。

今回紹介した作品はすべて実話に基づくもので、中には目を覆いたくなるような描写もあるものもあります。

ただ、過去にどういったことがあったのか、ということを学ぶ上では一度見ておいてもいいと思います。

最後に、『グリーンブック』は人種問題の知識がなくてもまったく問題なく観れる作品というのは既に書いた通り。

これを観て人種問題について考えましょう!と言うつもりはまったくなく、まずは触れてみて、そこからなにかを感じ取ったらそれについて考えてみる。まずはそれでいいのではないかと思います。

社会的・政治的問題を扱うスパイク・リー監督の作品もほとんど観ていませんし、探せばまだまだそういったテーマを扱っている作品も多々あります。

娯楽映画もいいですが、こういった問題を取り扱った映画は定期的に見ていきたいと思います。

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