『淵に立つ』のあらすじ・感想・ネタバレ~平凡な家庭にふと入り込んだ、全てをかき乱していく前科者と家族の行く末は…?~ | VODの殿堂

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『淵に立つ』のあらすじ・感想・ネタバレ~平凡な家庭にふと入り込んだ、全てをかき乱していく前科者と家族の行く末は…?~

   
 

タイトル:淵に立つ
公開:2016年
監督:深田晃司
出演:浅野忠信、筒井真理子、古館寛治、真広佳奈、太賀、三浦貴大ほか
閲覧したVOD:Amazonプライム・ビデオ(2018年1月29日時点では無制限で視聴可)

第69回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門審査員賞を受賞した本作は、観ると日本の映画界のこれからを背負う監督がまた1人登場したなと認識させられる重厚な作品となっています。
まだ30代の深田晃司監督が手がけ、カンヌ国際映画祭に初参加にもかかわらず、いきなりの公式部門にノミネート、そして受賞を果たすという快挙を成し遂げました。
平凡な家族のもとにあらわれた前科者の男が、徐々に家族へと侵食していく様は、はじめアットホームな雰囲気を振りまいているのに、だんだんと得体のしれない不協和音を奏で始めます…。
浅野忠信演じる八坂という男の不気味さも、浅野の新境地を見るようで一見の価値ありの作品です。
観た後は結構ダメージを食らう恐れがありますので、コンディションの良いときに観ることをオススメします。

『淵に立つ』配信先一覧
動画配信サービス 配信状況 見放題 配信先
U-NEXT 視聴ページ
hulu
dTV 視聴ページ
Amazonプライム・ビデオ 視聴ページ
※配信状況は2019年10月15日(火)時点のものです。
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あらすじ

平凡な家族のところに、ある男がやってくる

ごくごく一般的な両親と小学生の女の子、家族3人の食卓の風景。
「子はかすがい」ということわざがしっくりくるような、夫婦の会話がほとんどなさそうな食事時間だ。
夫であり父親の利雄は金属加工の町工場を営んでいて、妻で母親の章江はその工場の事務などを手伝っている。

ある日、利雄のもとに古い友人の八坂が「お久しぶりです」と現れ、利雄はそれに対して深々と頭を下げる。
八坂は最近出所し、家族も死んでしまって身よりもないため、いまは県の施設に身を寄せているという。
利雄は独断で、八坂をその日から雇い入れ、自宅の空き部屋に住まわせることに決める。
章江は八坂のことを当然詮索し、自分には何の相談もなく八坂を住み込みで働かせることに決めた利雄の決断に不満そうだ。

八坂が寝ている部屋をふとのぞくと電気がつけっぱなしのままだったので、章江がスイッチを切ると「うあぁぁぁ」と八坂が目を覚ましてしまう。
八坂は真っ暗になると眠れないのだということを章江に告白する。

翌朝の朝食の席では、ほんの数分足らずで食事を完食し、すぐに自分で食器も洗うという姿を見せる八坂。


また別のときには、オルガンのおけいこをサボっていた利雄を章江の娘の蛍を見つけて話を聞き、「先生が怖いからおけいこが嫌いなのだ」ということを聞き出す。
八坂はオルガンを上手に弾いてみせ、蛍は「その曲を発表会で弾きたい」と言い出したため、八坂は蛍にオルガンを教えるようになる。


はじめは八坂に不信感を抱いていた章江も、だんだんと八坂に好意を持ち始める。

八坂の過去が明らかになる

敬虔なプロテスタント信者の章江は、八坂を誘って教会へ行く。
その帰り、八坂は章江に「約束は命がけで守る」ということを教えられたがゆえに起こしてしまったとも言える自分が過去に犯した過ちを告白するのだった。


その過ちは4つで、1つは約束を守ることが命よりも法よりも勝るというゆがんだ価値観を持ってしまっていたこと、2つめは当然他人もそのように生きていると思い込んでしまったこと、3つめは「私は間違えない」という自分自身の正しさをかたくなに信じてしまったこと、4つめはゆがんだ価値観を根拠に人を殺めてしまったこと。
結果として刑務所に入るということは、反省するためではなく、逃げも隠れもしないという男らしさへのあこがれであり、「正しさ」という枠から逃げられないと語る八坂。
だが、法廷では遺族から罵声を浴びせられることはなく、被害者の母親は能面のような顔で自分の頬を打って泣き出したのだという。
そこで八坂は、自分が取り返しのつかないことをしたのだと悔やみ、実感した。
死刑になるべきだったが生かされているので、これからの人生は遺族に命を預けられたと思っているのだと、八坂は自分の思いを章江に語りつくした。

自宅に帰った章江は、夫になぜ八坂の素性を明かさなかったのかと尋ね、「あの人こそ神様に愛されるべきなのに…私を見くびらないで」と告げる。
八坂の部屋にやってきた章江は、そこで裁縫をすることにした。
傍らでは八坂が遺族への手紙をしたためている。
その手紙を読ませてもらった章江は、週末、ほかの家族たちと行く予定の川遊びに八坂も行こうと誘う。
蛍が八坂のことを気に入って、一緒に行きたいと言っているのだという章江に、「喜んで」と応じる八坂。

川遊びの日から、家族と八坂の関係が狂い始める…

釣りをするなどして、川遊びに興じる利雄たちと、ほかの家族。
流されてしまった麦わら帽子を追って、利雄と八坂が少し川下へと下り、2人きりになった。
遠まわしに、章江にどこまで話したのか、と様子をうかがう利雄に、いままで柔和な態度しか見せなかった八坂は態度を豹変させ、「お前のことなんて、何にも話さねぇよ」と見下したようにキレ、自分が服役している間、のうのうと平然と暮らしてきた利雄を罵る。


どうやら、八坂と利雄は共犯で、八坂が口を割らなかったことで利雄は服役せずに済んだらしいのだ…。

利雄と蛍が昼寝をしている間、八坂と章江は2人で川辺を散策する。
ほどなくして、八坂と章江はキスをするのだった…。

別の日、自宅で演奏会のときに着るのだという真っ赤なドレスを披露する蛍。
蛍が部屋を出て行き、八坂と章江はまた濃厚な雰囲気へと飲み込まれそうになるが、すんでのところで章江が止める。
しばらくして、散歩に出ていた八坂が、通りの反対側を逆方向へと歩いていく利雄の姿を見て、自宅に戻った八坂は台所に立つ章江の体を求める。
章江は強く拒否して、八坂はダイニングで激しく転倒、そのまま家の外に出ると目の前には蛍がいた…。

利雄が自宅に帰ってくると、蛍の姿がないことに気づき、外へ蛍を探しに行く。
近くの公園にたどり着いたところで、演奏会のドレスを着た蛍が、頭から血を流して倒れているのを目にする。


そして、その傍らには八坂がただじっと佇んでいるではないか…!
利雄は蛍を抱きかかえ、名前を必死で呼ぶが、蛍の意識は戻らない。


八坂は気が動転している利雄に「利雄! 利雄!」と何度も呼び続けるが、利雄は振り向くことすらできない。
八坂はその場から立ち去って、行方をくらましてしまった…。

八坂が消えて8年後…

蛍は八坂に襲われたときの後遺症で、口もきけず身体は麻痺し、車いすでの生活を余儀なくされていた。


興信所には探してもらっているが、いまだに八坂の消息はつかめていないようだ。
章江は「もう8年…」とつぶやき、利雄は「まだ8年」と言う。
利雄はただ、あのときに何があったのかが知りたいという気持ちを強く持っていた。

利雄の工場で、古株の社員が辞めるため、代わりに新たに入社してきた山上は、蛍にイヤリングのおみやげを買ってきたり、蛍の絵を描いたりする素直で礼儀正しい青年。
だが、ある日利雄に、自分の父親が以前にここで働いていたのだと、利雄に告げる。


母親の遺品を整理していて出てきた手紙の住所がここだったこと、自分自身は父親には1度も会ったことがないことを話すと、利雄は「八坂が父親だということは、章江を含め誰にも言うな」と強く口止めをする。
山上の母親は八坂とは結婚しておらず、連絡も今はないようで、母親と前に合ったのは川遊びのときの写真が母親のところに送られてきたころが最後だという。
山上は屈託なく、父親の消息が分かるかなという気持ちもあってここにやってきたが、ただ、会ったとしても話すこともない…と言ったところで、利雄は山上の頬を突然平手打ちした。
「なんでもない…」と弁解なのか、利雄はポツリと一言だけつぶやく。

蛍の絵を描く山上、その傍らでは必死で除菌のために拭き掃除をしている章江。
なんで絵を描くのか、と章江に聞かれ、「知りたいから。普段と見方が変わって、まったく別のものに見えるのが楽しい」と答える山上は、さらに正座で1日の反省と総括をさせるような厳しかった母が、最終的には寝たきりになって介護をしており、「殺してくれ」と何度も言われたという話を章江にする。
そのとき、山上の荷物の中から、例の川遊びのときの写真を章江が見つけてしまう。
たまらず八坂が父親であることを話してしまい、その事実を知った章江は戦慄を隠せない。
真実を何も知らない山上は、さらに共犯者のことは口を割らなかった八坂に母親がベタボレだったことなどを章江に話す。

ほとんど動かない蛍が、息をしているかどうか確認しようと、山上がゆっくりと蛍の顔に自分の顔を近づけてみているところに章江が入ってきて、章江は蛍にいたずらしようとしていると勘違いして山上を追い出す。

ある日、屋上で一人洗濯物を干している章江は、干してはためく白いシーツの向こうに、八坂の幻影を見る。
手に持っていた白いシーツを思わず下へと落としてしまう…。

利雄の告白

山上は章江に追い出されてから出社せず、利雄は彼のアパートを訪ねるが応答がない。
古株の設楽から、山上が辞めるつもりらしいという電話があったと連絡があった。
だが、利雄は八坂との接点にもなるかもしれないため、山上をこのまま引き留めて働かせたい。
章江は山上が、八坂の殺人には共犯者がいたと言っていたが何か知らないのか?と尋ねると、利雄は「それ、オレだよ。いたんだよ」と告白する。
殺された被害者の足を利雄が押さえ、八坂が首を絞めたのだが、八坂はそのことをずっと黙っていたのだ。
「お前、八坂とできてたろ?」と淡々と章江に語り掛ける利雄は「蛍の件はオレと章江への罰だ。8年前にオレたちはやっと夫婦になった」と続ける。
話を聞いて、泣きながら自分の頬を打つ章江。
遠くに蛍のうめき声が聞こえる中、2人は「別れようか?」、「ああ」、「あー疲れました…」とやりとりをするのだった…。

八坂の手がかりを追って…

興信所から、先週八坂に似た人物を庄内で見つけたという報告があった。
八坂のことはもう忘れると伝え、章江に電話をする利雄。
章江は電話には何も答えず、通話を切って走り出す。

利雄、章江、蛍、山上の4人は車に乗ってどこかへ向かっていた。
山上に「なぜ誘ったと思う? 八坂が見つかったら、あいつの目の前であんたを殺すつもりだから」と言う章江。
すぐに「うーそ!」と言うも、山上は「いいっすよ。それで気が済むなら死ぬっす」と章江をまっすぐに見つめて答える。
そんな山上に「気安く言うなよ、死ぬ気もないくせに」と章江は冷たく返すのだった。
八坂らしき男が見つかった写真の場所へと車を停めて歩いていく一行。
その家に、男が最近引っ越してきたらしい。
聞き覚えのあるピアノのメロディが聞こえてくる…それは、八坂が蛍に教えていたオルガンのあの曲だった。
そこには、少女にピアノを教える男の後ろ姿が…。
だが、その男は八坂ではなく、人違いだった。

普通に動いて歩ける蛍と公園のベンチに座る章江…次の瞬間、波打ち際にいる2人。
それは夢で、涙を流して章江は車内で目を覚ますのだった…。

帰る途中、山間の道路に車を停め、飲み物を買いに行った利雄と山上が車に戻ると、章江と蛍の姿が見当たらない。
2人はあたりを探してみるが、どうやら山の中に入ったらしい…。
山間の橋の上、橋の欄干を乗り越え、真っ赤なシャツを着た八坂が章江の方にニヤリと笑いかける幻を見る。


章江は蛍と2人で、下の川へと身を投げる。
利雄が飛び込み、まず章江を助ける。
川へ沈んでいこうとする蛍が突然手足を動かし、水面に出るように泳ぐが…。
それは幻だった…。
利雄が章江に平手打ちをすると、章江は息を吹き返した。
その傍らには、山上と蛍が倒れている。
山上が蛍を岸までは運んできたが、どうやら2人とも息をしていない状態のようだ。


蛍に必死で心臓マッサージを続ける利雄。
そして、利雄の終わることのないその息遣いをバックに、映画は終わりとなる。

まとめ・感想

…これ、もうホラー映画と言ってもいいんじゃないかっていうぐらい、暗くてダークで、救いようがない人間ドラマです…。

とにかく浅野忠信演じる八坂というところのつかみどころのなさが、まさにヌルっとしたうなぎのように感じられ、本当に気味が悪い。
はじめは、八坂がめちゃくちゃいい人で、この家族の「優しいおじちゃん」という立ち位置になっていくのかな…と期待してしまうわけですよ。
前科者だけれど、礼儀正しく、謙虚で、子どもにも優しく接する大人の見本のような男は、夫婦仲が冷え切ったごくごく平凡な家族に風穴を開けるかのように感じられ、観ている方も、その風穴は良い方向へと向かうための突破口だと感じられるのですが…。
自分が口をつぐむことで、利雄は刑務所に入ることなく平和な日常を送り、妻をめとって子どもをもうけ、幸せに暮らしているという事実が「正しい」とは思えなくなったらしい八坂が、静かに復讐を始めてしまうのです。
風穴はプラスへと向かう突破口ではなく、地上26,000フィートあたりを問題なく航行している飛行機の機体に開けられた穴のように、いままで普通に享受していた幸せなものの数々を外へと放出してしまうような風穴だったのです。

利雄への復讐なのか、それとも自分の欲を満たすためなのか、八坂は利雄の妻・章江と関係を持とうとしますが、結局章江に拒否されてしまい、その腹いせとしてターゲットになったのが、小学生の蛍でした。
蛍が八坂にどう襲われたのかは描かれていませんが、頭を強打されて血を流し、死んでしまってもおかしくなかったのかもしれません…。
あまりにも残酷な展開に、観ている方も唖然としてしまいます。

後半に描かれるのは、八坂が行方をくらまして8年後。
口もきけず体も動かせなくなってしまっている蛍の介護をして、疲れ切った様子の章江と、八坂をまだ能動的に探し続けている利雄の姿が、8年前の立場とは全く対照的に映ります。
8年の年月は、またこの家族に変わらない日常をもたらしつつあったのに、また八坂の影が見え隠れし始め、それは、八坂の血を分けた息子が、利雄の町工場に入社するという意外なかたちで突然訪れたのです。
山上は、素直で正直そうで、笑顔にも好感が持てる、まさにザ・好青年。
章江も彼には非常に好意を持って接するのですが、彼が八坂の息子だと知った瞬間に、態度は180度変わります。
まあ…娘にひどい仕打ちをした男のDNAを受け継いだ人間を信用なんてできるわけないっていうのは、よくわかりますけれどね…。

そして、八坂らしき人物が目撃されたという情報をたよりに、家族3人+山上の4人で現地へと向かうのですが…。
そこで一瞬だけ現れる、章江が見る八坂の幻影は邪悪そのもの!
血の色に見える真っ赤なシャツを着て、章江の方をギロリと睨むように不敵な笑みを浮かべる八坂。
章江の方を見ている…というか、実際はカメラの方を見ているわけなので、画面を見ている我々と八坂は、いやおうなしに目を合わせることになるのですが、この世の者とは思えないような恐怖を感じるほどです。
浅野忠信の演技がスゴいのもあるとは思いますが、このストーリーテリングでグッと観客を引き込む深田監督の手腕も大きいと思いましたね。

八坂に対峙することができなかった章江の中で何かがプツンと切れてしまい、ついに蛍と心中するという選択をする章江。
それを必死で救おうとする利雄と山上。
映画の幕切れは、真っ暗に暗転した画面に、利雄が必死で心臓マッサージを施しているその息遣いしか聞こえてきません。
八坂はどうなったのか、利雄、章江、蛍の家族はどうなったのか、はたまた同行していた八坂の息子の山上はどうなったのか…?
その先は何も描かれないことで、絶望というか救いようのなさをひしひしと感じる映画でした。

…いや……? 反対にこの先を描かないことが、ある意味最高の救いなのかもしれませんね。
利雄たち家族にとっても、そして、観る側の我々にとっても…。

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