監督:トッド・フィリップス
脚本:トッド・フィリップス、スコット・シルヴァー
製作:トッド・フィリップス、ブラッドリー・クーパー、エマ・ティリンガー・コスコフ
出演者:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ、ブレット・カレン、ビル・キャンプ、シェー・ウィガム、他
音楽:ヒドゥル・グドナドッティル
製作会社:ヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズ
公開:2019年10月4日
目次
あらすじ
大道芸人としてピエロを演じるアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は母の介護をしながら、自身も発作的に笑いがこみ上げるという症状や過去の精神疾患から福祉センターでカウンセリングを受けつつ日々を過ごしている。
コメディアンを夢見ながら大道芸に勤しむアーサーだが、不良少年たちに商売道具である手持ち看板を盗まれた挙句に暴行されたり、壊されてしまった看板を弁償するように雇い主に言われたりと報われない。
世知辛い世の中でさらに次々と巻き起こる負の連鎖から、不器用ながらも心優しい普通の男がは、世紀のヴィランであるジョーカーに生まれ変わることになる…。
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ホアキン・フェニックスが演じるジョーカーやいかに?
ここから先はネタバレになります。問題ない方は読み進めてください。
公開のかなり前から話題となっていた映画『ジョーカー』。
さらに拍車をかけたのが、9月頭に発表となったヴェネツィア国際映画祭での最高賞である金獅子賞の受賞でした。
いままでにアメコミ映画がこのような賞を獲得したことは皆無だったわけで、他のアメコミ映画と比べたときに、いかに完成度が違うのかが私にとって気になって仕方がなくなったわけです。
当時のニュースでは、プレミア後にスタンディングオベーションがかなり長く続いたということも報じられていたので、「これはとんでもない映画ができてしもたんやないやろか…」と、公開が待ち遠しくならないわけがない!
さらに考えると、今までの映画で演じられてきたジョーカーは、ほとんどが伝説として語り継がれているわけです。
1989年公開の、ティム・バートン監督の『バットマン』でオスカー俳優でもあるジャック・ニコルソンが嬉々として演じたジョーカーは、やはり今観てもサイコー。
さらに、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じたジョーカーは、ジャック・ニコルソンが築き、唯一無二だと思われたジョーカー像を超えたと言っても過言ではないほどの最強で最凶のヴィランとなりました。
ヒースは『ダークナイト』の完成を待たずに急性薬物中毒で早逝してしまうことになったのですが、ジョーカーを演じたことによって不眠症となるほど追い詰められていた、という説もあるほど、彼が役にのめり込んでいたことは、スクリーンを見れば一目瞭然。
…と、それほどまでに強烈な印象を残すジョーカーを、また新たに演じるのがホアキン・フェニックス。
リヴァー・フェニックスの弟で、『グラディエーター』や『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』といった作品ではオスカーノミニーもされている実力派です。
ここ最近の彼の出演作をいくつか観ていたこともあり、ちょっと病的なところもありながら、悲哀が漂う演技が似合うようになった彼であれば、ジョーカーはぴったりなんじゃないかな…と思っていました。
特にカンヌ国際映画祭男優賞を受賞した『ビューティフル・デイ』で演じた役柄も、どこか今回の『ジョーカー』につながるような孤独な男だったので、私にとっては彼がジョーカーを演じるということに関しては違和感ゼロ。
ただ、ホアキンに決まる前に、なんとレオナルド・ディカプリオにジョーカー役のオファーがいってたというから、これには驚きました…!
レオ様が演じていたとしたら、ジャック・ニコルソンのジョーカーを彷彿とさせたのでは…となんとなく思ったりもしますねぇ。
ぶっちゃけレオ様のジョーカー、めちゃくちゃ観たいがな…。
ブルース・ウェインがまだ子どもの頃のゴッサム・シティとは
時代は1980年代のゴッサム・シティ。
財政難からか、ゴミの収集を行う職員がストライキを起こし、街にはゴミがあふれネズミも大量発生しているというニュースが報道されています。
冒頭では、閉店大売り出しセールをアピールするピエロのアーサーが、不良少年たちに看板を奪われ必死で追いかけるも、たどり着いた路地で待ち伏せされた少年たちにフルボッコにされてしまいます。
商売道具だった看板は最初の一撃で無残にも破壊され、殴る蹴るの暴行を受けて満身創痍のアーサーに、雇い主は紛失した看板を弁償するようにという無情な通告をします。
ひどい目に遭ったアーサーに、同僚は「護身用に持っておけ」と拳銃を渡してくれるのですが、この銃がアーサーのその後の人生をさらに狂わせるツールとなってしまうのです…。
とにかく、すさんだ状況のゴッサム・シティはまさに現代社会をそのまま反映しているかのよう。
今の日本ではゴミがあふれ、ネズミが大量発生するというような状況はさすがにありません。
しかし、アーサーがカウンセリングに通う福祉センターも、予算の削減で閉鎖になるなど福祉関連の事業は軽視され、持つ者と持たざる者の貧富の差が激しい社会であることが浮き彫りになっているゴッサム・シティ。
また、アーサーは自宅で母親ペニーの面倒をみているのですが、この母親はトーマス・ウェイン(のちにバットマンとなるブルース・ウェインの父親)のところでかつて働いていた経験があるようで、ウェインに手紙を書き続け「彼は必ず私たちを助けてくれるはずよ…」と返事を待っています。
独身の男がわずかな収入で細々と生活せざるを得ないなか、自宅で認知症とおぼしき母親の介護も引き受けているという状況…。
どこか、自分が住む社会とシンクロしているように思えませんか…?
ここから先はネタバレになります。問題ない方は読み進めてください。アーサーを追い詰めるさまざまな要因とは…
さて、同僚が親切心でアーサーに渡してくれたはずの銃ですが…。
ある日小児病棟でピエロを演じていたアーサーが、ショーの最中に隠し持っていた銃を床に落としてしまうんです…!
アーサーに銃を渡した同僚は、自分にも火の粉が降りかかるのを恐れたのか、「アーサーに頼まれたから銃を売った」と、雇い主に嘘の説明をしました…。
もちろん小児病棟で拳銃ポロリ事件は大問題になり、この事件からアーサーは仕事をクビになってしまいます。
傷心のアーサーがピエロ姿のまま地下鉄に乗って自宅へ帰る途中、近くに座っていた女性が、パリっとしたスーツを着ていながらも言動は決して上品とは言えない複数の男性にナンパされつつ、絡まれているところに遭遇します。
そのとき、笑いの発作が起こってしまったアーサーが彼らの新たなターゲットとなり、電車の中で暴行されてしまうんです。
このときアーサーがとっさに取り出したのはあの拳銃で、スーツの3人の男たちを撃ち殺してしまいました…!
アーサーは当然、自らが衝動的に犯してしまった殺人に動揺してしまい、現場から逃走します。
殺した男たちはウェイン・コーポレーションに勤めるエリートたちだったことが分かり、富裕層に対して不満を持つ民衆たちから、図らずも「ピエロ姿の殺人犯」はヒーローとして崇められることになるのです。
一方で、資産家であるトーマス・ウェインは次期市長選挙に出馬を表明している名士。
自分の会社の「優秀な」社員が殺害されたこの犯罪に対し「仮面なしでは殺人もできない卑怯な犯人だ」と批判します。
アーサーの母親はウェイン氏にずっと手紙を書き続けているわけですが、返信が来る気配はありません。
ある日、母親がウェインに宛てた手紙を開封して中身を読んでしまうアーサーは、トーマス・ウェインが自分の父親だと記されていることに驚愕。
母親に問いただしたところ、彼女とウェインは恋に落ち、子どもを身ごもるのだが無情にも捨てられたと聞かされます…。
翌日、ウェイン邸に押し掛けたアーサーは、まだ少年のブルースへ門越しに話しかけるのですが、そこで執事が止めに入りました。
この執事はペニーのことを知っていましたが、「お前の母親はイカれてる」と相手にされることはありませんでした…。
さらに次々とアーサーを襲う「不都合な真実」
あきらめきれないアーサーは、トーマス・ウェインが主催するイベント会場に忍び込み、トイレにやってきたウェインに自らが何者かを名乗るのですが…。
トーマスは「私は父親なんかではない。お前はペニーがウェイン家で働いていたときに養子として引き取られた子どもだ」と告げ、さらにアーサーの顔面を殴るという冷たい対応…。
何が事実なのかを知るべく、アーサーは以前に母親が入院していた病院の記録を半ば強引に調べたところ、自分が養子であり母親とは血縁関係がないこと、母親の精神疾患のこと、さらに母親の交際相手からの虐待で自分が脳に損傷を受けたことを知ってしまいました…。
その頃までに警察は地下鉄殺人の捜査に乗り出し、アーサーの自宅に事情聴取をしにいったことから母親は倒れて入院していたのですが、アーサーは母親の顔に枕を押し付け、窒息死させてしまうのです。
そんなアーサーの唯一の救いとなっていたのは、同じアパートに住むシングルマザーのソフィー(ザジー・ビーツ)の存在。
ひょんなことから会話をするようになり、交際をするようになって、自身のスタンダップコメディーショーにも駆けつけてくれていたソフィー。
でも…実はこのソフィーとの関係はすべてアーサーの妄想だったのです(まさかの夢オチかよ…)!
ソフィーの部屋で彼女の帰りを待っていたアーサーですが、戻ってきたソフィーはアーサーの名前をうっすらと憶えている程度。
当然ながら部屋からたたき出されてしまうのです。
もうアーサーに信じるものは何もない…。
彼のなかで、何もかもが崩壊していくことは明らかですよね…。
もうこの辺から、ジョーカーの登場は近いことが分かります。
まだまだストーリーの途中ですが(笑)、Twitterでも感想を拾ってみました。
話題になっている作品だけあって、様々な感想が入り乱れています…!
『ジョーカー』を観た感想
・とりあえずエグい
・初っ端から胸糞悪い
・精神衛生上マジで良くない
・R15じゃなくてR18でもよかった
・狂っていく様がリアルだし怖い
・バットマンと少し繋がりがあって良い✨
・覚悟しないと観れない正直この映画はもう観たくない😭😭
こんなん受賞していいの?ww pic.twitter.com/TkY0IxUP00— 🦸♀️Captain Senosu🦸♂️マーベル好き❤ (@SENOSU7) October 6, 2019
アメコミ映画だから、『バットマン』のスピンオフだから…、と軽い気持ちで観に行ってしまったら、本当に病んでしまうと思います。
この方がおっしゃるとおり、本作はちょっとヘビーすぎますよ…。
ジョーカー見てきました
色々考えさせられる感じでした
絶望の淵に立ったら人間みんなこうなっちゃうんじゃないかなって
まだ若いし人生経験なんてこれっぽっちしか無いから深いところまでの理解は出来なかったけど、もう少し歳を取ってから見たらまた違う感想になるんだろうなと思いました pic.twitter.com/vavTqgBitt— KEY (@key_millidere) October 6, 2019
「考えさせられる」というのは、この映画を観て誰しもが思うんじゃないかな…とは思います。
ただ、感想が「つまらない」と「サイコー」に分かれている感があるんですよね…。
実は公開日に観てた。賞を取りそうな作品だと思うけど、「現代社会への警鐘だ」的な感想が多くて草。俺は正直言うとそこまで傑作だとは思わなかったし、正直前半は退屈寄りだし、ぶっちゃけホアキンの演技に頼ってた部分あると思う。
って言うとセンス無いとか言うんだろうなあ。 pic.twitter.com/TsaojPW8ao— ミウラリ (@Miurari0809) October 9, 2019
私も実は…この作品を絶賛はしません…というかできません(笑)
ただ、ホアキン・フェニックスの演技は評価されて当たり前だと思いますな。
ついにジョーカーが誕生する…!
この作品で、もう1人忘れてはならない存在が、自分の冠番組を持っているコメディアンであるマレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)。
アーサーは彼に憧れ、自身もコメディアンとして活躍したいと願っているわけですが、ある日、アーサーのスタンダップコメディーの動画が、このマレー・フランクリン・ショーにて取り上げられるという驚きの展開に!
さらに、彼のネタが話題になって反響があったということで、アーサーに番組への出演依頼がきます。
ただ、マレー・フランクリンは、アーサーのコメディネタを好意的に紹介したのではなく、アーサーを笑いものにしていたんです…。
番組内では「ジョーカー」と紹介してくれとマレーに頼み、さらに番組内で地下鉄殺人の犯人は自分だと告白するアーサー。
そして…、生放送中にもかかわらず、アーサーはマレーをカメラの前で射殺します。
警察に逮捕され連行されるパトカーの中から見えるのは、暴徒化した市民の姿。
そのパトカーに救急車が衝突し、アーサーはピエロの仮面をかぶった男たちに助け出され、ヒーローのように崇められるのです。
時を同じくして、暴動に参加していた一人の男に、トーマス・ウェインとその妻は、少年ブルースの目の前で殺されてしまうのでした…。
アーサーがジョーカーへと変貌したことを理解できるか…?
アメリカでは公開前から本作が「暴力を誘発する可能性がある」と物議を醸していて、『ダークナイト ライジング』の上映中に銃乱射事件が起きたアメリカのコロラド州の映画館では上映しないことも決定されました。
それほどまでに、社会に影響をもたらすかもしれない内容であるという風に認知されたことは明らかですね。
1989年公開の『バットマン』で、ブルース・ウェインは自身の両親がジョーカーに殺されたことを思い出すシーンがあります。
つまり、私たちもジョーカーがバットマンの両親殺しの犯人だと思い込んでいたわけですが、本作ではジョーカー自身ではなく、暴徒化した一人の男が犯人ということになっていました。
これは「誰しもがジョーカーたりえる」というメッセージだったのでは…と私は解釈しました。
荒れた世の中に生き、見ず知らずの人間から暴力を振るわれ、雇い主からは責任を押し付けられ、同僚にも裏切られ、唯一の肉親と思っていた母親との関係性も嘘で塗り固められ、尊敬する人からもバカにされて…。
ジョーカーがこの映画のなかで犯した殺人は、すべて「誰でもよかった」という無差別殺人ではありませんでした。
衝動的に犯したものにせよ、意図的に犯したものにせよ、彼なりの理由があっての殺人であったということが、これまでに描かれてきたジョーカー像とは違っていた部分です。
いかなる理由があるにしても殺人を肯定することは決してできません。
でも、一定数の人間がこの作品を観て、アーサーがジョーカーとなったことについては「理解できる」と思ったのではないでしょうか?
まとめ
本作を「傑作」と絶賛する声も多く、日本でも公開から5日間で興行収入10億円を突破するという大反響が起きています。
でも正直申し上げると…、私個人的には少々退屈に思ってしまったんです。
うーむ…、ちょっと公開前から期待しすぎちゃったっていうのもあるのかなぁ…。
ホアキンの演技はさすがだし、随所での音楽の使い方などは映画としてすばらしいなと思います。
でも、アーサーがジョーカーになることはそもそもの設定で分かっていることだし、その過程をあまりにもダークで救いようがない形で描かれるのを、嬉々として観ることは当然ですができないわけで…。
ですから、決して私はこの「ストーリー」に感動することはないし、それは何度観ても変わらないと言い切れます。
また、本作を他の『バットマン』シリーズと比較することはできないし、比較してしまうのは無粋なことは理解した上で…、個人的には『ダークナイト』という作品自体と、ヒース・レジャー演じるジョーカーのスゴさを改めて再認識。
ただし、今回の『ジョーカー』を観てから、『ダークナイト』をはじめとするジョーカーが出てくる作品を観たとき、よりジョーカーというヴィランの存在が深みを持って浮き彫りになるのでは…と感じたのは間違いありません。

子どものころから映画大好き! ヒマさえあれば、むさぼるように映画を観るアラフォー女子。いまはドラマ『チェルノブイリ』のビッグウェーブに飲み込まれてます。
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