名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)のあらすじ・ネタバレ・感想~なぜ隣にいるのは平次くんじゃないのだろう~ | VODの殿堂

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名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)のあらすじ・ネタバレ・感想~なぜ隣にいるのは平次くんじゃないのだろう~

   
 

タイトル:名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)
公開年:2017年
監督: 静野孔文
キャスト:江戸川コナン:高山みなみ/毛利 蘭:山崎和佳奈/毛利小五郎:小山力也/服部平次:堀川りょう・比嘉久美子(幼少時代)/遠山和葉:宮村優子/大岡紅葉:ゆきのさつき
視聴:DVD

「名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)」は、2017年GWに公開された作品です。
2016年に公開された「純黒の悪夢」から約5億円上乗せして、68億9000万円を叩きだしています。

今回の舞台は、大阪と京都です。
毛利小五郎の仕事で、テレビ番組の収録に訪れたコナンと、案内人の服部平次と遠山和葉は、日売テレビ爆破事件に巻き込まれます。

そして、爆破事件を皮切りに次々と襲われるカルタ協会「皐月会」の面々と、カルタ札の謎を解くコナンと平次のコンビネーションが最高と言わざるを得ない作品です。

また、これまで間接的に関わることが多かった、服部平次がメインとなる物語で、幼馴染の遠山和葉だけではなく、平次の婚約者を自称する美少女、大岡紅葉にも注目してください。

『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』配信先一覧
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※配信状況は2020年3月24日(火)時点のものです。

あらすじ

殺人事件

京都にある矢島邸で、男性がテレビを見ながらカルタ取りを行っていた。

「師と同じ得意札か。すべて君のおかげやで、大岡紅葉。」

「今日のテレビ収録が終わったら、礼言わんとな。」

男性はカルタ札を重ねながら、あくどい笑みを浮かべる。
しかし、廊下に誰かがいることに気が付き、表情を戻して入り口に向かうと、そこには刀を構えたある人物が立っていたのだ。

「あんさん!?まさか!!あぁぁぁぁっ!!」

刀で頭を強く殴られた男は、血を流しながらカルタ札の山の中へ倒れていく。

侵入者はそのまま部屋の中に入り、まだ息がある男性にもう一度刀を振り上げ、とどめを刺したのであった。

対談の仕事

対談の仕事により、大阪にある日売テレビを訪れた毛利家と少年探偵団。
今回はカルタ会の重鎮と対談するらしく、スタジオではすでにリハーサルとしてカルタ取りが行われていた。

「ってかなんで、俺たちこんなところでカルタ見てるんだ?」

そう言って首を傾げる小五郎に、傍にいた遠山和葉があきれたような声を出す。

「せやから未来子がいうてたやん?対談前やから控室で待っといてって!せやのにおっちゃんが、あの綺麗な子につられてこのスタジオに入ってまうから…。」

しかし小五郎は、未来子という女性に覚えはなく、視線をそらして「未来子って誰だよ。」と声を出す。

「さっき紹介したやろ!?あのきれいな子のカルタの相手してるメガネの子!」

「あたしも所属してる、我が改方学園のカルタ部の部長やで!」

未来子は今日小五郎が対談する人物が会長を務めるカルタ会に所属しており、服部平次と和葉はその繋がりもあって、小五郎の仕事に同行しているようだ。

リハーサルが終了した後、蘭は子供たちを連れて楽屋に戻り、コナンは「お父さんを見張るように!」と蘭に頼まれたので、スタジオに残る。
服部と和葉も、未来子がいることもあって、収録が始まるまでスタジオに待機することに。

今回、小五郎が出演する番組は京都で絶大な力を誇るカルタ会である【皐月会】特集で、スタジオには決勝戦でのみ使用される【皐月会のカルタ札】も飾られている。

皐月会所属の未来子に聞いたところ、【皐月会のカルタ札】は会員にとって憧れの存在で、普段は美術館に展示されているそうだ。
また、過去に一度紛失騒動があったことから、王者である矢島氏が阿知波会長を説得して、現在は厳重な警備によって守られているらしい。
ちなみに、阿知波会長こそ、本日小五郎が対談する相手である。

「ここに写ってるんが、会長の阿知波研介や。」

服部の説明によると、彼は一代で阿知波不動産を築き上げた【ナニワの不動産王】と呼ばれる男だ。

「そんな男が、なんでカルタなんかやってんだ?」

「唯一の趣味やったそうや。腕前も相当なもんらしいで。」

服部の説明を小五郎と共に聞きながら、コナンは雑誌を自分のほうに引き寄せる。

「でも阿知波さん自身は、選手よりも読手になりたかったらしいね。」

コナンは雑誌を流し見しながら、ページをめくると、阿知波会長と美しい女性が並んだ写真が掲載されていた。

「お!誰だ、この美しい女性は!?」

「阿知波さんの奥さんの、皐月さんです。」

小五郎の質問に答えたのは、未来子だ。
もともと皐月会は、クイーンだった皐月が立ち上げた会であり、阿知波会長は2代目らしい。

「あと対談で話題になりそうなことは…あ、これなんか面白いんじゃない。」

コナンが指さしたページには、阿知波会長が皐月さんの試合の前には、験を担いで洗車することが書かれていた。

「車を綺麗にしておくことが、成功と勝利の秘訣って書いてあるね。」

「で?俺はこの験担ぎ夫婦と3人で対談すればいいのか?」

「いいえ。奥さんの皐月さんは、3年前に病気でお亡くなりになって…今日対談なさるんは、阿知波会長だけです。」

少し表情を曇らせながら告げる未来子に、小五郎も少し言いにくそうに「そ…そうか。」と返すにとどまった。

「あのさ…阿知波さんの横に必ず写ってる、すごく強そうな人は誰??」

「ああ、その人は阿知波さんの秘書やった、海江田藤伍さんや。阿知波不動産の裏の部分を一手に引き受けてきた、切れ者らしいが…今は秘書を辞めてどこにおるんやら。」

服部はそうコナンに告げるが、女性陣、特に皐月会に所属している未来子からは大ブーイングを受けることになった。

その後、多くのお付きを引き連れて皐月会会長、阿知波研介が到着。
遠目でその様子をうかがっていたコナンたちは、さすがの貫禄に圧倒されていた。

そこへスタッフが駆け込んできて、今回収録に参加する予定だった矢島が到着していないことを告げる。
どうやら何度電話をしても連絡がつかないようで、阿知波会長を含め首をかしげてしまう。

「あの几帳面な矢島君が遅刻とは…念のため関根君にも来るように言っといてくれ。万が一の時は、彼に代役を頼むとするか。」

阿知波会長にそう言われた秘書らしく女性は、すぐに関根に電話をかける。
しかし、関根は矢島邸におり、死亡した矢島の遺体と対面していた。

「っ!!」

「ま…まさか…っ!!」

未来の旦那さん

撮影まで時間が空いたことを知ったコナンたちは、少しテレビ局内を散策することに。
その途中で、服部が先ほど未来子とカルタをしていた女性とぶつかってしまったのだ。

「す、すんません!大丈夫ですか?」

そう言って服部が心配そうに、女性の顔を覗き込む。
すると、彼女は大きな瞳を見開いたまま、大粒の涙をこぼし始めたのだ。

「運命やわ…。」

「「え!?」」

「会えるんやないかと思てました…うちの未来の旦那さんに!」

「未来の!?」

「旦那さん!?」

「「えぇぇぇ!?」」

着物美人の発言に、その場にいた全員が度肝を抜かれる。
しかし、彼女はまったく周りを気にした様子はなく、服部の腕に自分の腕を絡ませて、この後の予定を尋ねてくる。
それを見た和葉は慌てて2人の間に乱入しようとするが、その前に彼女をスタッフが呼び、颯爽と去っていったのだ。

「誰やねん…あの女!!」

残された和葉は、早々に服部に詰め寄る。
しかし、服部は彼女に会ったのは今日が初めてで、「あんな綺麗な人、忘れられるはずないやろ!!」と言葉を返してしまったのだ。
そのせいで、二人の口論はヒートアップし、見かねた少年探偵団は蘭を連れてどこかへ行ってしまったのである。
そして、残されたコナンは、スマホを使い「皐月会 紅葉」というワードで、彼女の素性を調べてみることに。

「ねぇねぇ…平次兄ちゃん、本当にこの人知らないの?」

コナンはスマホに表示された画面を、服部と和葉が見えるように掲げる。

「大岡…紅葉…、2年連続皐月杯高校生チャンピオン。京都泉心高校2年生。将来クイーンになることが確実視されている。」

「大岡、紅葉?」

「未来のクイーンか…。」

爆破事件

大阪府警に、「日売テレビを爆破する」と書かれた爆破予告がメールで送られてきた。
メールには爆破予告の他に、カルタ札が添付されており、服部の父親である平蔵、和葉の父親である銀司郎、そして大滝悟郎はどのような対応をするか検討している最中だった。

「どない思う平蔵。単なるいたずらか、本物の爆破予告か。」

「このメールだけでは判断つかんが…いたずらやなかったら、大ごとやぞ。」

平蔵の判断により、日売テレビは避難指示を告げる館内放送を流す。
コナンと服部は、和葉に避難するように言った後、何が起こったか調べるためにテレビ局の奥へ走りだすが、コナンは小五郎に捕まって外に連れ出されてしまった。

そして、うまくスタジオに戻った服部は、そこで日売テレビを爆破するという予告が大阪府警に届けられたことを知る。
スタジオにいた未来子は、阿知波会長に避難するように言われたが、皐月会のカルタが気になってその場から動くことができなくなってしまった。
しかし、服部が無理やりスタジオから連れ出したことで、ようやく避難を開始したのである。

「あ、平次!未来子!!」

先に避難しろと言われていた和葉は、非常階段のところで二人を待っていたのだ。
平次はそんな和葉に注意しながら、非常階段を下っていく。
しかし、ここで未来子の足が止まってしまったのだ。

「和葉ごめん!やっぱりあのカルタ…置いて行かれへんよ!!」

そう言い残し、未来子はスタジオへ戻ってしまったのだ。

その頃コナンは、一度は小五郎たちと非難したものの、車のキーを拝借し、持ってきていたスケボーを回収したあと、犯人追跡メガネを使って服部の位置を調べる。

「なんだ…っ、服部のやつ、まだ中にいるのか!?」

一方、スタジオに戻った未来子は、皐月会のカルタを箱にしまっているところを警備員に見咎められていた。
未来子を追って戻ってきた服部と和葉は、警備員に「すんません!!」と謝り、未来子を連れて今度こそ避難を開始。

しかし、彼らが逃げ出す前に、日売テレビの外にいた犯人がこれ以上中に人が入ることを懸念して、起爆装置のスイッチを押してしまったのだ。

「まじかよ!!」

周りを固めていた消防隊や警察官は、慌てて周囲の人たちを下がらせる。
中にいた服部たちは、避難途中に建物が爆発の衝撃で崩壊してしまい、警備員と未来子は避難通路に逃げることはできたが、服部と和葉はテレビ局の中に閉じ込められてしまう。

建物はあっという間に炎に包まれ、下に避難することができないと判断した服部は、和葉とともに屋上へ。
しかし、その屋上はコンクリートで作られておらず、炎によって床があっという間に崩落してしまったのである。

服部が上へ避難していることを知ったコナンは、彼らを救出するため、隣のビルへ向かい、スケボーをかっ飛ばす。

(クソッ、煙で何も見えねぇ!!)

炎の中で苦しそうにせき込む和葉を抱きしめる服部は、炎を睨みつけながらジッと助けを待っていた。

(俺一人やと無理や…俺一人やとな…っ工藤!!)

「一か八か…やるっきゃねぇ…。」

 

伸縮サスペンダーを握りしめたまま、コナンはキック力増強シューズのダイヤルを回し、ボール噴出ベルトから出したサッカーボールを勢いよく視線の先にある叩き込む。
そして、目の前に置いてあったスケボーに飛び乗り、割れたガラスに向かって飛び出していった。

「いっけぇぇぇぇ!!」

キック力増強シューズから放たれた電気が、服部への合図となる。

「あれか!!」

(やっとお出ましか…工藤!!)

コナンは不安定な足場に強引に着地するため、手にしていた伸縮サスペンダーを投げる。
投げられた伸縮サスペンダーを掴んだ服部は、コナンを引き上げ、ようやく炎の中から脱出する方法を得たのだった。

服部はまず、唯一奪取できそうな場所へ和葉を移動させる。
その間にコナンは伸縮サスペンダーを固定し、服部と和葉が逃げられるように準備を整える。
ちなみに、和葉はコナンの存在に全く気が付いておらず、服部の帽子で目隠しをされ、そのまま俵担ぎにされてしまっていた。

「すまんな…先に下で待ってるわ。」

そうして、服部は和葉を抱えたまま下に降りて行ったのだが、その途中で派手な爆発が起こり、コナンが炎の中に取り残されてしまったのである。
屋上は崩落している部分も多く、スケボーで加速する足場を失ったコナンは、息ができず蹲ってしまう。
しかし、朦朧とする意識の中、自分を待ち続けている幼馴染の姿を思い出したのだ。

(蘭!!)

「諦めて…たまるかよ…。」

コナンは犯人追跡メガネのスイッチを入れ、まだどこかにスケボーを加速させる場所がないか探すため視線をさまよわせる。

「あれだ!!」

一方、先に下に降りた服部は、いつまで立っても降りてこないコナンにやきもきしながら燃え盛るビルを見つめていた。

(なにしてんねや、工藤!さっさと…あ!!)

コナンは壊れた鉄筋を足場にして、高く高くスケボーで飛び上がる。

そして、屋上にあった大型のパラボラアンテナに着地し、その中心部に伸縮サスペンダーをひっかけ、くるくると回り始めたのだ。

(もっとだ…もっと速く!!)

(息ができねぇ…っ、もう少し!あと少し!!ここまでかよぉぉぉ!!)

コナンはパラボラアンテナが崩壊するギリギリまで加速し、そのまま日売テレビの横を流れる川に向かってジャンプ。

(だめだ!届かねぇ!!)

しかし、加速が足りなかったせいで、コナンはビルの中腹に落下し、そのまま道路に向かって転落していく。

「待ってたで!!ほ~らよっと!」

だが、コナンの考えを呼んでいた服部が落下地点に現れ、高くジャンプして放りだされた彼を抱きかかえて川に飛び込んだのだ。
そのおかげで、小五郎の車のキーは川に沈んでしまったが、コナンは大きなケガなく、燃え盛るビルから脱出することに成功した。

「にしてもお前…あんなもん持ってきて…日売テレビが爆破されるん知ってたんか?」

服部がいうあんなもんとは、コナンのスケボーのことである。

「バーロー…んなわけねぇだろ。もしもの時のためだっての。」

「そのもしも、お前が呼んだんとちゃうか?」

「ハーン…みてぇだな。」

女の戦い

幸いにも、爆破現場に取り残されたコナン、服部、和葉に大きなケガはなかった。
しかし、未来子は腕を負傷してしまったようで、病院に運ばれたそうだ。
蘭たちは未来子の様子を知るため、病院に向かうらしく、コナンはそちらに同行し、服部は現場に残り、懇意にしている大滝警部から日売テレビ爆破のあらましを聞くことに。

そして警察病院に向かったコナンたちは、未来子が腕を骨折してしたことを聞かされたのである。
彼女はいくら大切なカルタ札を守りたい一心だったとはいえ、服部や和葉を巻き込んでしまったことをひどく後悔していた。
未来子と同じように、避難途中にケガをした阿知波会長はそんな彼女に歩み寄り感謝の言葉を述べたのだ。

「君は、皐月会の顔ともいうべきカルタを救ってくれた。会を代表するものとして感謝の気持ちはとても言い尽くせんな。」

「でも会長!これでは皐月杯に出られへん。」

「君ほどの実力者が参加できへんのは、皐月会としても非常に残念なことやが、今はケガを治すことに専念すべきやないかな。」

未来子が落ち込んでいるのには、もう一つ理由があった。
彼女はカルタ部の部長として、数日後に開催される皐月会主催のカルタ大会で優秀な成績を収めなければ、ついに伝統あるカルタ部が廃部となってしまう危機感を胸に抱いていたのである。

「元気だし、未来子。」

「そやかて…。」

「確かに未来子と私以外、まともにカルタできる部員おらんかったしな…。」

そこで、未来子はいつも誰が自分の練習に付き合ってくれていたか、思い出したのである。

「和葉!あんたが出て!!」

「えぇ!?」

カルタの知識があり、度胸と体力に優れた和葉であれば、自分の代わりに大会でいい成績を残せると判断したのだ。
もちろん、これまで大会に出たことがない和葉は、無理だと断るが、未来子に引く気がない。

「大丈夫や。これから特訓すればなんとかなる!」

しかし、そんな未来子の言葉を近くで聞いていた紅葉が声を上げて笑う。

「素人が大会に出て優勝狙わはるん?いっそのこと、百人一首やのうて、いろはガルタに変えてもらいましょか?」

「馬鹿にせんといて!和葉の技量は、いつも練習してるうちが一番ようわかってる。試合経験はないけど、間違いなくA級並みの腕前やで!」

未来子の反論に、紅葉は少し馬鹿にしたような表情を浮かべ、和葉をじっと見つめる。

「いうたら平次くんと一緒にいてはりましたけど…いったいどないな関係なんやろ?」

「っ…小っちゃい頃からいっつも一緒で、平次はあたしのっ…あたしの…。」

「大好きなんだよね!」

顔を真っ赤に染め、二の句が継げなくなった和葉の代わりに少年探偵団が答える。
彼らから見ても、和葉が平次に恋してるのはバレバレだったからだ。

「しのぶれど…やなぁ。」

「幼馴染で恋愛ごっこ、ほんま和みますわ。」

紅葉は和葉を平次を狙うライバルと認定し、ある勝負を持ちかける。

「明後日の大会で優勝したほうが、平次くんのお嫁さん第一候補。先に告白して平次くんをゲットする。」

紅葉の提案に、子供たちは眼をパッと輝かせるが、コナンは驚きとともに顔色を悪くする。

「あんたが本気なんやったら、それくらいの覚悟できてますやろ?」

その無茶な提案に、未来子はすかさず「受ける必要ない」と助言をする。
しかし、紅葉の目は本気だ。
言いたいことだけ言って去っていく紅葉に、和葉の覚悟は決まった。

「待ち!その勝負、受けたるわ!!」

女の戦いが、幕を開けた。
紅葉は不敵に笑ったと、「ネイルサロンで平次くんに告る言葉考えないかんから。」と告げた後、綺麗なお辞儀をしてその場を去っていく。
しかし角を曲がろうとしたとき、小五郎とぶつかりそうになり、パスケースを落としていってしまった。

「お父さん、ちょっと待ってて。ちょっとこれ届けてくるね!」

蘭とコナンは、紅葉の後を追って走り出す。
しかし、ぎりぎり追いつくことができず、紅葉を乗せた車は走りだしてしまった。

「どうしよう…これ…。」

「名前や学校はわかってるけど、連絡先は中見たほうが早いんじゃない?」

「そうだね…。」

コナンの言葉に背を押され、蘭は恐る恐るパスケースの中を開く。

「えっと…これは写真か…。」

(ん…?誰だ、この人。)

「あ、もう一枚ある…へ!?」

「げ!?」

そこに移っていたのは、明らかに幼いころの服部と紅葉である。
2人は笑みを浮かべながら指切りをし、何かを誓い合っていることは容易に想像できた。

「何の約束したんだろう…?」

「結婚の約束とか?」

2人は声を合わせて笑い始める。

「こんな子供なのに?」

「そんなわけないよね!」

(いや…あいつ割といい加減なとこあるし…。)

(あるかも…。)

コナンと蘭は、お互い顔を見合わせて乾いた笑みを浮かべ、写真については秘密にすることを約束。
ただし、コナンはコッソリ蘭の背後に回り込み、正体不明の人物が写った写真だけスマホに記録したのであった。

殺人事件

その後、蘭は和葉たちのもとへ戻り、コナンはようやくやってきた服部を出迎える。
しかし、現状めぼしい情報はないようで、何かわかれば連絡が来る手はずをつけてきたそうだ。

そんな話をしている二人の横を、阿知波会長たちが通り過ぎようとしたとき、彼の秘書が焦った様子で電話を持ってきたのだ。
どうやら阿知波会長のオフィスに、京都府警から緊急連絡が入ったらしい。

「京都府警から!?うん…それで、矢島くんがなんやて?…なに!?殺された!?」

殺人事件が起きたと知ったコナンと服部は、小五郎が止めるのも聞かず走りだす。
その結果、小五郎は阿知波会長とともに、コナンは服部が運転するバイクに乗って、京都の矢島邸へ急行。
現場には、二人と面識がある綾小路警部がいたため、すぐに殺害現場へ立ち入ることができたのである。

殺害されたのは、造り酒屋の御曹司で皐月会に所属している王者、矢島俊弥。
豪邸に一人で住んでおり、何者かにが金品を目的に侵入し、矢島と鉢合わせになったため、盗む予定だった日本刀で撲殺された、というのが、小五郎と京都府警の見解であった。

しかし、綾小路に許可を得て殺害現場に足を踏み入れたコナンと服部はおかしな点が多々あることに気が付いていた。

「どない思う、工藤?」

「まだ何とも言えねぇが…この右手。」

コナンはスマホのカメラに現場写真を記録しながら、遺体の手についた血痕が妙なことを指摘する。

「血の付いたものを、無理に引き抜いた感じだ。」

「この部屋で血の付いたもんいうたら…カルタ札か。」

服部は部屋に散らばったカルタ札を見渡しながら、うんざりした声を出す。
これだけたくさんあるカルタ札から、血の付いたものを選別し、被害者が握っていたものを探すのは骨が折れるからだ。

「それならまかせろ。そういう解析が得意な奴がいる。」

そう言って、コナンは散らばったカルタ札を順番にカメラに収めていく。
一方平次は、倒れたテレビを起こし、被害者が最後に何を見ていたか確認することに。
すると、そこに映し出されたのは、カルタ大会に出場している紅葉の姿だった。

「矢島さんは襲われる直前まで、これを見ていたのか。」

それは、過去に行われた皐月杯決勝戦の様子を記録したものだった。

「矢島さんはなぜこの映像を…。」

コナンの疑問に、小五郎と話をしていた阿知波会長が答える。

「決勝戦ともなれば、相当ハイレベルになるからな。技の駆け引きから札の並べ方まで、見るだけでも参考になることが多いんや。殺人事件とは関係ないんちゃうかな?」

しかし、それに納得できないコナンは、「でも!」と言葉を続けようとするが、小五郎に首根っこを掴まれてしまい、平次とともに現場から追い出されてしまったのである。

一方、東都に残った博士は、日売テレビ爆破のニュースを見て、コナンの身を案じていた。
灰原は子供たちと連絡がついているので、特に心配した様子はないが、タイミングよくコナンからの電話が入る。

「あなたね、連絡もよこさないで一体何してたの?博士ものすごく心配してるわよ。」

そんな説教から始まった灰原に、コナンは軽く謝罪をした後、先ほど撮影したカルタ札を送信したことを告げる。

「その中から、被害者が握りしめていた札を突き止めてほしいんだ。おめぇそういうネチネチ組み立てんの得意だろ?」

「っ…ネチネチねぇ…一枚だけ人物写真があるけど。」

コナンは先ほど紅葉の手帳に挟まっていた写真の解析も、同時に依頼したのだ。

「この人もカルタがらみ?」

「まあな。俺はそう睨んでる。」

「はぁ…とにかく、やってみるから時間ちょうだい。」

灰原の言葉に、コナンは「頼りにしてる。」と言って電話を切ってしまう。
博士は要件が終わったら電話を代わってもらおうと思っていたので、しょんぼりと落ち込んでしまった。
そんなことになっていたとは思っていないコナンは、服部とともに今後の方針を話し合う。
2人は皐月会の主要メンバーが狙われていると考えており、自由に動ける服部は紅葉を、同じホテルに宿泊しているコナンが阿知波会長をマークすることに決定した。

そこへ、1台の車が入ってきた。
車を運転していたのは、皐月会に所属しているフリーのカメラマンで関根康史という人物だ。

彼は日売テレビの爆破事件をニュースで知り、皐月会に電話をしたら阿知波会長は矢島のところで自分を探していると聞かされたので、慌ててやってきたらしい。

「こない警察が集まって、矢島はどないしましてん?」

「矢島くんは…殺されてしもうた…。」

「ええ!?」

「強盗の仕業…ちゅうことらしい。渡り廊下にあった刀で…。

「刀で…、そんな…。」

矢島と関根は、よきライバルであり、ここ数年はこの二人が皐月杯の優勝を争っていたそうだが、ここ2年程は矢島に軍配が上がっていたらしい。

「それで、大会は予定通り開催するんでしょうか?」

小五郎の質問に、阿知波会長は「どないしたもんかと…。」と、開催について迷っていることを告げる。

「会長あきまへんで!矢島の死で伝統ある皐月杯が中止になってしもうたら、矢島は無駄死にどころやない!殴られ損や!!」

そんな関根の言葉を、彼の背後で聞いていたコナンと服部の表情が変わる。

「なぁ工藤、俺犯人わかってしもうたで。」

「俺もだ。たぶん矢島さんを殺したのはあの人だ。だが、皐月会を狙ったと思われるテレビ局爆破も彼の犯行と考えるには、、まだ…。」

「せやな。阿知波さんと紅葉に関しては、さっき決めた通り見張っておいたほうが無難やな。」

「ああ。」

特訓

一方、ホテルに戻った蘭と和葉は、数日後に迫った皐月杯のために特訓を続けていた。
しかし、百人一首の知識はあっても、カルタ経験がない蘭では相手にならず、どうすればいいか困り果てていた。

そこへ、強力な助っ人が到着する。
小五郎とともに京都から大阪に戻ってきたコナンは、阿知波会長に発信機を装着したあと、蘭に呼ばれ部屋に戻ろうとしたときに、ロビーで服部の母、静華と出くわしたのだ。

実は少し前、和葉から電話を受けた服部が、未来子の代わりに皐月杯へ出場する和葉が練習相手を探していることを知り、紅葉の警護のため京都にいる自分に代わり、母親を向かわせたのである。

「私が相手になりましょ。元クイーンの私では力不足かもしれまへんけど。」

ほかならぬ息子に頼まれた彼女は、自分が持てるすべてを和葉に伝授するつもりでやってきていた。

「ただ、時間が足らんさかい、稽古はきついもんになりますえ。それでも、よろしいか?」

その気迫のある視線に、和葉はゴクリと息をのむ。
しかし、彼女にとってこれは絶対に負けられない戦いであるため、「よろしくお願いします!」とはっきり返答したのであった。

揺さぶり

コナンと服部は、小五郎を麻酔銃で眠らせ、会議室に関根を呼び出した。
2人は「矢島さんは日本刀で殺された」と情報しか知らないはずの関根が、「殴られ損や」と発言したことで、彼が殺人事件に何らかの関与をしていると検討をつけていたのだ。

「普通凶器が刀だと聞けば、惨殺か刺殺と考えるはずだ。にもかかわらず、あなたは殴られたと言った。凶器の刀がさび付いて抜けなかったことは、犯人しか知らないことだ。なぜあなたは、撲殺だと知っていたんですか?」

その質問に、関根は一瞬言いよどむ。

「そ、それは現場で遺体を見たからや!もうええやろ!」

関根はそのまま部屋の外で出ようと、扉に手をかける。

「あなたが来る直前、遺体には覆いがかけられた。あなたが直接遺体を見る機会はなかったんですよ。」

「っ!!」

「そ、それは…っなんとなくや!血の飛び散り具合とかで、なんとなくそう思ったんや!!」

関根はそう反論し、そのまま会議室を出て行ってしまった。

「今の揺さぶりで…奴がどう動くか。」

「あと注意すべきは…。」

「例の試合会場か。」

「ああ、さっき調べたんだが、厄介なことになりそうだぜ。」

コナンが持つスマホには、皐月杯が開催される会場の写真が表示されていた。
皐月杯が行われる会場は広大だが、問題はそこでない。
決勝戦が行われる皐月堂は、崖の中腹にあり、そこに上がることができるのは読手の阿知波会長と決勝戦を戦う選手だけで、まさにカルタのために作られた最高の競技会場だった。

紅葉と葉っぱ

大阪観光に出かける蘭を見送ったあと、和葉は静華にすぐに特訓を再開しようと声をかける。
和葉を激励にきていた未来子は、元クイーンが直々に手ほどきをしていることを知り、優勝間違いなしだとはしゃぐが、それを紅葉に見られてしまったのだ。

「そんなに練習したいんやったら、うちが相手しましょうか?その子が決勝まで残れるとは思えませんし。」

そんな馬鹿にした紅葉の言葉に、和葉は憤怒するが、すぐに静華に止められる。
静華は「私がお相手します。」と紅葉の前に進み出たのだ。

「っ!?元クイーンの池波静華さんが何でこの子のために!?」

しかし静華はその質問には答えず、「それで?お手合わせしてもらえるんやろか?」と挑発。

「そこまで言わはるんでしたら、お願いします。」

一方、コナンと服部は競技会場に移動する皐月会の面々を追うため、バイクに乗って待機していた。
そこへ、灰原から写真の男の身元が判明したことと、カルタ札の解析がもう少しで終わるという連絡を入っていた。

それからしばらくして、毛利家が宿泊しているホテルでは、静華と紅葉の試合に決着がついていた。
勝負は紅葉の勝ちで、彼女は「久しぶりに楽しませてもらいました。ありがとうございます。」と言って席を立つ。
和葉は静華と紅葉の試合に圧倒され、呆然としてしまっている。

「しかしすごい度胸やなぁ…この程度で驚いてはって試合に出るやなんて。」

彼女はうつ向いていた和葉に、容赦なく言葉をたたみこむ。

「よう覚えとき。うちの名前は紅葉。あんたと違うて、ただの葉っぱとちゃいますから。」

「は、葉っぱ…っ!」

紅葉の言い方に、大人として静華が「それくらいにしときよし!」と苦言を呈す。
しかし、彼女の口は止まらない。

「いくら相手があんたみたいな素人でも、うちは手抜いたりしません!」

なんでも、彼女は昔素人に油断して、屈辱的な負けを経験したことがあるそうだ。

「やる限りは全力でいかせてもらいます!」

「の、望むところや!」

「まぁ、カルタの話はそれくらいにして。あんたこんなところにいてええの?」

静華は、ここ最近の事件に皐月会が関係していることを知っているのか、彼女がふらふら出歩いていることを心配しているようだ。

「ご心配おおきに。でもうちは大丈夫です。なにしろ西の名探偵、服部平次くんがついていてくれますから。」

紅葉は動揺する和葉に、面白おかしく、平次が一晩中ボディーガードをしてくれたことを告げたあと、「明日の試合、楽しみにしてます。」と去っていったのだ。

「あら、平次も隅におけまへんなぁ。」

静華は自分の息子のモテっぷりが面白いとばかりに言葉を発するが、すぐ後ろに控えていた和葉はわなわなと震えていた。

「平次~!あんたがあの女とどないな関係かしらんけど!!カルタの試合でフルボッコにしたるさかい、見とけや平次ぃぃぃ!!」

和葉がホテルの一室で叫び声をあげた頃、外でコナンと待機していた服部は「あぁぁぁっ!」と悲鳴を上げながら両腕をさすっていた。
何やら悪寒のようなものが彼を襲ったらしく、その顔色はすこぶる悪かった。

名頃鹿雄

「来たぞ。」

コナンたちの目の前を、皐月会のメンバーが警察に護衛されながら移動していく。
バイクに跨った二人も、それに続いて移動を開始したのだが、出て早々の信号待ちで事件が起こった。

なんと突然関根の車が爆発し、コナンと服部、そして関根の前にいた紅葉の車が爆風に巻き込まれてしまった。

もちろん京都への移動は中止。
関根は意識不明の重体、紅葉は大きなケガこそなかったが、大事をとって警察病院へ搬送された。
特にケガがなかった阿知波会長は、そのままコナンや服部と共に大阪府警に向かい、今回の事件について話し合うこととなる。

「こないなことになってしまった以上、きっちり事情聴かせてもらいましょか?阿知波さん。」

大阪府警でも、日売テレビから始まった一連事件は、すべて皐月会に関係するものであると考えられていたのだ。

「ねぇ、おじさん。この名頃鹿雄さんって誰なの?」

コナンが提示した写真に、阿知波会長は明らかに焦った表情を浮かべる。
そして、少し間を開けたあと、名頃鹿雄について話始めたのだ。

数年前まで、京都には【名頃会】という協会があったそうだ。
皐月会とは違い、会員数は20名足らずだったが、まさに少数精鋭主義と言っていいほど厳しい特訓をしており、名頃鹿雄はそのリーダーで、名人への挑戦権も近い将来獲得するといわれるほどの腕前だった。
しかし、彼は勝つことへの執着が強く、傍から見て美しいカルタとは思わなかったそうだ。

そんな男が5年前、彼は「負けたほうが会をたたむ」ことを条件に、今は亡き阿知波皐月に勝負を挑んできた。
皐月会としては、そのような勝負を受ける必要はなかったのだが、名頃は皐月が逃げられないようにマスコミに情報を流し、勝負をしなければならない状況に追い込んだのだ。

けれども、結局試合は行われることはなかった。
マスコミを焚きつけたにもかかわらず、名頃は試合会場に姿を現さず、結局皐月の不戦勝となり、名頃会は解散した。
そして、名頃自身は現在も行方不明らしい。

「まさか、今回の事件はその名頃が皐月会への逆恨みから…。」

「わかりません。ただ、当時名頃会の解散の強硬に主張してたんは、殺された矢島くんだったんです。」

当時、皐月会としては、ことを荒立てるつもりはなかったそうだが、それは叶わず、結局名頃会は解散してしまったそうだ。

「ほんで、解散した名頃会のメンバーは?」

「もちろん、希望すれば皐月会に入れるようにしたよ。もっとも入会したのは2人だけやったがね。」

その二人こそ、今回の事件に巻き込まれた、大岡紅葉と関根康史である。

「特に大岡くんは、名頃くんのテクニックを徹底的に教え込まれ、腕を上げていき、数ある得意札もまったく同じ…しかも紅葉の情景を歌った6枚札は2人とも逃したことがない。」

「まさに一番弟子といえる存在やった。」

阿知波会長の話を聞いた一同は、名頃鹿雄が容疑者の1人であると認識したようだが、なぜ5年も沈黙していたのか、わざわざ爆破予告のメールを大阪府警に送ったのか、いろいろ疑問は残る。
平次は爆破予告メールを送ったのは、自分が戻ってきたことをアピールするためではないかと考えているようだが、コナンはどうも納得していない様子。

「ってことは…一連の事件は名頃鹿雄による、皐月会への復讐とみて捜査すべきか…。」
そう平蔵が決断しかかったとき、大滝の携帯電話が鳴り、関根のスマホにカルタ札が添付された宛先不明メールが届けられていたという報告が入る。
そのカルタ札は、24番菅原道真が読んだ歌で、紅葉の情景を歌った名頃の得意札であった。

それを知った平次は、大急ぎで紅葉に連絡を入れる。
どうやら紅葉のスマホにも、宛先不明のメールが届けられており、関根に届いていたメール同様、名頃の得意札の画像が添付されていたのだ。

平次は紅葉に大阪府警に来るよう告げるが、彼女が「なんぼ平次くんの頼みでもそら聞けません。」ときっぱり断ったのである。
明日はいよいよ皐月杯当日のため、試合に備えることを優先したのだった。
大阪府警は、やむなく彼女を警護する手筈を整えることになる。

「こうなると、矢島さんにだけカルタが送られへんかったちゅうことに…。」

そう言って考え込む平蔵に、コナンは声をかける。

「矢島さんの殺害現場にも、カルタ札のメッセージはちゃんとあったんじゃない?」

「つまりや、真犯人の名頃は矢島さんを殺した後、自分の得意札を残し現場を後にしたけど、後から来た関根がその工作をさらに偽装してしもうたちゅうこっちゃ。」

矢島の殺害現場を見た関根は、犯人が残したメッセージに気づき、師匠の犯行を隠すため強盗に見せかけたのだ。

平次は椅子から立ち上がり、備え付けのテレビの電源を入れ、コナンはその横でスマホを操作し、テレビとスマホをつなぐ。

「実はある人に写真を分析してもろうたんや。」

テレビ画面に、血痕がついたカルタ札の写真が表示される。

「血の付き方がかすかの札の、ゆがみなどから判断して、矢島さんが握らされていた札は。」

「32番、春道の椿!!」

やはり、矢島が殺害された現場にも、紅葉の情景を歌たった札はあったのだ。

「真犯人は、名頃鹿雄とみて間違いなさそうやな。」

平蔵の言葉により、大阪府警は名頃鹿雄の行方を追うことになる。
大阪府警を出たコナンと服部は、共に出た阿知波会長に「名頃の得意札があと2枚残っていること」「犯人を捕まえるために情報が欲しい」ことを告げた。
彼らは、阿知波会長はまだ何か隠していることに気が付いていたのだ。

「ねぇ…5年前、名頃さんとの間で何があったの?」

「そ…それは…っ。」

「あったんやろ、なんか!あれへんかったとは言わせへんで!」

阿知波会長は一瞬言いよどむが、何かあったことを確信している二人を交わすことはできないと判断したのか、大阪府警には話せなかった5年前の真実を話すため、二人をホテルの部屋に招待したのだ。

一方、少年探偵団と大阪観光に出かけていた蘭は、紅葉にパスケースを渡すため、警察病院を訪れる。

「すみません、紅葉さんですよね?さっき連絡した毛利です。」

「あなたでしたか!わざわざ届けにきてくださって、ほんまありがとうございます。」

紅葉はスッと頭を下げた後、蘭からパスケースを受け取った。
彼女にとって、それはお守りみたいなもので、それがない状態で明日の試合にどう挑めんばいいかと不安な気持ちになっていたそうだ。

「そちらとしては、敵に塩を送るみたいな恰好になってしまいましたやろか?」

「あ、いえ!」

「あの子…練習し過ぎて、指痛めんとええけどな…。」

紅葉がネイルをしている理由は、指先を保護するためだった。
カルタは指先がすごく大切な競技なので、練習以外の時はいつもつけているらしい。

「あ、あと、連絡先を知りたくて、パスケースの中見ちゃって…それで写真に…。」

だんだん声が小さくなってい蘭に、紅葉は何が言いたいか察したようで、幼い彼女と服部が写った写真を蘭の前に出す。
その写真は、幼いころ参加したカルタ大会で服部に負けた時のものだった。

幼い服部は、悔しくて泣き続ける紅葉と、ある約束をしたのである。

「泣くなや。今度おうたら、嫁にとったるさかい、まっとれや!」

「ほ…ほんま?」

「おう。約束やで。」

紅葉はその日から、服部のことを未来の旦那さんだと信じていたのだ。

「で、でも子供のころの約束だから!」

「子供も大人もあらへん!男が一度口にしたことは、そう簡単にまげたらあきません!ちゃいますか?」

『好きな女の心を、正確に読み取るなんてことはな!!』

かつて自分が新一に言われた言葉を思い出した蘭は、紅葉の言い分にうなづくことしかできなかった。

「瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ。身は離れていても、心は繋がってるって信じてましたのに。」

紅葉はうっすら浮かんだ涙をぬぐい、和葉への伝言を頼むことに。

「葉っぱちゃんに伝えといてください。うちは、狙った札は誰にも取らせへん。そう先生に教わってきたと。」

これまで和葉に対する強烈な印象しかなかったが、実は一途に服部のことを思い続ける人だと知った蘭は、複雑な胸中だった。
そのためホテルに戻ってからも、彼女はずっと上の空で和葉に心配されてしまったのである。

「大阪見物から帰ってきてから、蘭ちゃんなんか変やで?」

「ごめん。それより調子はどう?」

蘭は自分の気持ちを悟られないように、和葉の特訓の状況を尋ねてみる。
すると、和葉は静華に「自分の得意札を決めなさい。」と宿題を出されているそうなのだが、いまいちどの札もピンと来なくて困っていたのだ。

「そんなに悩むことかな?」

蘭は和葉の前に座り、並べられたカルタ札をじっと見つめる。

「百人一首って恋の歌が多いでしょ。勝負とかそんなこと考えないで、ピンとくる好きな歌選べばいいと思うけどな。」

そう言って、蘭が選んだのは紫式部が読んだ「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな」という歌だ。

「あいつやっと会えたと思ったら、すぐどっか行っちゃうから。」

蘭の胸の内を聞き、和葉も力を抜いて素直な気持ちでカルタ札と向き合う。

「私は…しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで。」

「隠しても隠し切れない恋の歌。和葉ちゃんにぴったりかも!紅葉さんにもバレバレだったしね。」

蘭の言葉に、ほほを染めていた和葉の眉間にしわが寄る。

「そやかて、なんであの人あんなに自信たっぷりなんやろ!まるで平次の婚約者気取りや!!」

蘭は見事に、和葉の地雷を踏みぬいてしまったらしい。
和葉は図々しい紅葉に憤怒しているようだが、紅葉の事情を知った蘭は胸中複雑で、和葉に全面的に同意することができなくなっていたのであった。

5年前の出来事

阿知波会長の部屋に招待されたコナンと服部は、5年前の勝負の前日、名頃が皐月と勝負するために訪ねてきたことを聞かされていた。

「その記事には、名頃は皐月との試合が怖くなって逃げたと書かれているが、実は前日に来てたんや。」

なぜ前日に来たかは、当時留守にしていた阿知波会長にもわからないらしい。
ただ、皐月は「皐月会のカルタ札を使って倒すのが目的だったかも。」と生前話していたそうだ。

当時、皐月会のカルタは会長宅で保管されており、読手は阿知波会長が吹き込んだカセットテープを使用して試合は行われた。

「結果は皐月の圧勝で、名頃は手も足も出んかったそうや。うちに帰った時、ちょうど彼が真っ青な顔で玄関から逃げるように去っていったのを覚えている。」

そして、それが名頃鹿雄を見た最後の時だったそうだ。
話を聞いた服部は、「なんで警察で話さなかったのか?」と尋ねる。
すると、「個人的な試合に、伝統あるカルタを使用したと、会員たちに知られたくなかった。」と阿知波会長は返した。

(ん?なんだこの写真の違和感。阿知波さんの車が今の物と違うからか?)

コナンがそんなことを考えている間に、服部を阿知波会長の話は終わりを迎えていた。

「一刻も早く、名頃を捕まえてくれ。」

「ああ、まかしとき!」

すれ違う気持ち

同じころ、ホテルで特訓を続ける和葉の集中力は、ますます研ぎ澄まされていた。
視線はカルタ札をとらえているのに、彼女の背後でコーヒーに砂糖を入れる蘭に「2つじゃ足りひん。」と告げたのだ。

(あかんあかん!このままやったら、平次が…平次があの子に取られてまう!!)

「なんや和葉、えらい怖い顔して。」

「ええ!?平次??」

「誰かと喧嘩してんのか?」

眉間にしわを寄せ、一心不乱に床をたたき続ける和葉の前に、平次が現れたのだ。
捜査がひと段落した服部は、母親に代わって和葉の練習相手になろうとホテルに来たのである。
彼は小学生の時、カルタ大会で優勝したこともあって、なかなかの腕前だったのだ。

「ねぇねぇ服部くん。その小学校の時に出たカルタ大会のこと何も覚えてないの?大会で負かした女の子のこと…。」

蘭の問いかけに、服部は記憶を掘り起こす。

「そうか!そうやったんか!和葉、あんときのカルタ大会や!」

「平次が飛び入りで出て、優勝したやつか?」

「あぁ、あんとき勝負に負けて大泣きしとった女の子がおったやろう。あれが大岡紅葉やったんや!」

しかし、紅葉とかつて出会っていた以上のことは思い出さなかったのである。

そして、紅葉との勝負で気が立っている和葉は、「あんたはあの子のボディーガードやろ!」と言って服部を追い出してしまったのだ。
部屋を出て行った服部が、どんな表情を浮かべているかも知らずに。

一方、自宅で明日の試合に備えていた紅葉が、ベッドの上で返却されたパスケースを開く。
そして中から取り出したのは、平次との写真ではなく、敬愛する師匠の写真だった。

「名頃先生…今年もうちに力を貸してください。」

そしていよいよ、皐月会当日の朝を迎える。
会場に向かうため、支度を整えた阿知波会長は写真に写る妻に声をかけた。

「見守っておくれ…皐月…。」

彼が手にしていたスマホには、紅葉の情景を歌ったカルタ札が映し出されていた。

厳戒態勢

京都、阿知波会館には大勢の警察官が警備にあたっていた。
入り口には金属探知機を持ったスタッフも配備され、厳戒態勢のなか皐月杯はスタート。
蘭や少年探偵団は、観戦専用の施設へ向かい、コナンと服部は警察官とともに警備スタッフのところで待機していた。

「まぁこれだけ警備が厳重なら、名頃も入ってこれないだろう。」

小五郎の言葉に、綾小路が頷く。

「名頃どころか、あらかじめスタッフ登録してないものは、誰一人入れません。」

ちょうどその時、コナンのスマホに光彦からある写真が届いた。
それは先ほど元太がお土産屋さんで怒られた写真で、千枚漬け鷲掴みにしてむさぼる姿が写っていた。

「何やってるんだよ、元太。千枚漬けを鷲掴みにして…。」

(そうか!)

そのころ、阿知波会館に忍び込んだある人物が、警備施設を強襲。
彼はその場にいたスタッフを昏倒させ、防災システムをダウンさせたのだ。

そのような事態が発生していることに、だれも気付かないまま皐月杯は進んでいく。
そして、ついに決勝戦まで試合は進み、大岡紅葉と遠山和葉の対戦が決まった。

決勝戦

いよいよ残すは決勝戦のみ。
しかし、そこで事態が動き出す。
大阪にある警察病院で入院中の関根が、意識を取り戻したのだ。
平次の推理どおり、彼はずっと行方不明だった名頃を探しており、こそこそ調べまわっていた矢島に目をつけて見張っていたそうだ。
そして、あの日矢島の遺体を発見し、師匠の犯行を隠すために隠ぺい工作をしたことを自白したのである。
連絡を受けた大滝は、より詳しい事情聴取を行うため、阿知波会館の警備を京都府警に任せ大阪に戻ることに。
ちなみに小五郎も、大滝とともに大阪に戻っていった。

同じ頃、阿知波会館の外れにある倉庫に、先ほど防災システムをダウンさせた男が忍び込んでいた。

「これで終わりや。でもなんでこんなとこにダイナマイト仕掛ける必要が…。」

男は持っていた箱を置き、起爆装置のスイッチを入れると、表示されたタイマーの時刻はゼロ。

「なっ!!」

男はそのまま倉庫を道づれにし、爆弾とともに吹き飛んだ。
その音は阿知波会館で警備に当たる者たちの耳に届き、現場はパニックに陥る。
コナンたちは慌ててその場を飛び出し、阿知波会館のはずれにある倉庫へ急行した。

外でそんな騒ぎが起こっているとは知らない和葉と紅葉は、阿知波会長とともに皐月堂へ向かっていた。

和葉は心臓が口から飛び出しそうなほど緊張していたが、それは紅葉も同じである。

「うちの告白をうけて、平次くんがどないな顔するか、気になって気になって…。」

(負けへん…負けられへん。絶対に!!)

一方、爆破現場に到着したコナンと服部は、現場検証をしていた警察官から爆破現場にいた被害者が、爆弾を設置して誤爆したらしいという話を聞かされる。
遺体の損壊は激しく、すぐに身元を判別することができないらしい。
服部や綾小路は、名頃が誤爆したと考えるが、コナンが発見した遺留品によって別人の可能性が浮上する。

「服部、あれを見てくれ。」

「なんやこれ?指輪か?」

指輪は木にめり込んで損壊していることから、おそらく被害者のものだろうと断定。
後からやってきた綾小路は、それを見て「えらいゴツイ指輪ですなぁ。」とつぶやく。

(大きな指輪…待てよ…。)

「海江田藤伍!!」

その指輪は、かつて阿知波会長の秘書だった海江田が所有していたものだった。

「すると、その海江田ちゅうんが真犯人…。」

しかし、綾小路の言葉を服部がすぐに否定する。

「この指輪が見つからんかったら、あそこの遺体は名頃ちゅうことになってたかもしれんのや。」

「つまり、この爆発は名頃さんが死んだように見せかける偽装…。」

「待てよ!今の時点で名頃が死んだことにするちゅうことは、残っとった例の2枚のカルタ札はもう誰かに送られてるんとちゃうか?」

「いや、2枚やない。」

綾小路は、先ほど大滝警部から連絡を受け、阿知波会長のスマホにカルタ札の画像が送られていたという連絡があったことを告げる。

(残りは一枚…決勝戦のみ…っ!!)

「そうか!!すでに阿知波さんにカルタ札が届いてたってことは、残るは一枚。そして、その一枚を送る相手はまだ決まっていなかったんだ!」

コナンの言葉に、服部は顔を色を変え、綾小路に急いで遠山和葉のスマホを調べるように頼む。

「え、ええ。しかしどういうことです?」

「なんで最後に一枚が残されていたんか…それは、決勝戦にだれが進むかわからんかったからや!」

「っ!!ということは、ターゲットは皐月堂に集まってる三人!!」

真犯人

「2人ともすまないね…。」

阿知波会長は和葉と紅葉に謝罪の言葉を口にしたあと、読手として競技進行をスタート。

一方、皐月堂に入る三人がターゲットだと知った綾小路は、すぐに決勝戦を注意するように指示をしたのだが、警備員がそれを会場に伝えようと受話器を上げた瞬間、皐月堂の真下で大きな爆発が起こったのである。

それにより、皐月堂にいた三人は大きな揺れを感じ、姿勢を崩してしまった。
しかし、競技カルタ専用に作られた室内は外の音を完全にシャットアウトしているため、「地震でしょう。これくらいの揺れなら心配いりません。」と説明する阿知波会長の言葉を信じ、協議が続行されたのである。

爆発が起きた瞬間、駐車場にいたコナンと服部は、急いで皐月堂に向けてバイクを走らせる。

皐月堂の下では、警察官たちが大きくなる火を止める手立てを懸命に考えていたが、防災システムがダウンしているうえに、道が入り組んでいるせいで消防隊が入れない事実に歯がゆい思いをしていた。
勢いよく燃える炎は、あらかじめ用意されていたであろう燃料に引火し、どんどん燃え盛っていく。

山道を登っていくバイクの上で、コナンと服部は事件について整理し始める。
彼らの中で、名頃鹿雄が犯人だという説は消えており、真犯人が別にいるという確信を得ていた。

「すでに皐月会を去っていた海江田をスタッフとして再登録し、爆弾を渡せるんはあの男しかおれへんやろう!!」

「阿知波研介会長!!」

彼はこのまま和葉と紅葉を道づれに、命を絶つつもりだった。
服部は「絶対そんなことさせるもんか!!」とアクセルを全開にし、皐月堂へまっすぐ向かっていく。

一方、決勝戦は白熱した展開が続いていた。
一進一退の攻防戦を繰り広げ、和葉は未来のクイーンと名高い紅葉にくらいついていた。

(一番取りにくいところにある…っ、紅葉さんもわかってるんや、あれがあたしの得意札やっていうことを!!)

(取る…絶対取る…取らないかんのに!!)

和葉の集中力は、どんどん欠落していく。
自分の心臓の音すら煩わしくなり、ブンブンと首を振って追い出そうとしたとき、脳裏に服部の声が浮かんだのだ。

『なんや和葉、えらい怖い顔して。誰かと喧嘩してんのか?』

和葉はスッと手を挙げて、一度立ち上り、大きく深呼吸をした。

(そうや…喧嘩したらあかん。あかんねん。エアコンの音、着物の擦れる音、札に触る音、かすかな息づかい、そして、胸の鼓動!!みんな仲間や!あたしの中に入ってきてええんよ。)

精神統一を終えた和葉に、もう迷いはない。

(ほんまの音、捕まえたる!!)

そして和葉の集中力は極限まで高まり、読手の音を完璧に捕まえた。

「し…。」

「は…っ!?」

その頃、皐月堂へ着々と近づいていたコナンたちは、一連の事件について推理を始めていた。

真犯人である阿知波会長の狙いは、一連の事件は皐月会を逆恨みした名頃鹿雄の仕業だと思わせることだった。
5年前、皐月と試合をする予定だった名頃は、なぜか前日に現れ前哨戦が行われている。
阿知波会長は、その試合に皐月が勝ったと話していたが、それにはおかしな点があった。

「ホテルで見た記事の写真やろ?」

あの写真には、ドロドロになった阿知波会長の車が写されており、それにコナンも服部も強い違和感を抱えていたのだ。

「阿知波さんの紹介記事に、皐月さんの試合前日にはいつも車をピカピカに磨くって書いてあったのに、あの写真では汚れてた。大切な試合の前日に洗車しなかったのは、名頃さんが来ないことをわかっていたからだ。」

そして、5年前の前哨戦で、皐月が負けていたのであれば、それは名頃鹿雄を殺す動機になるのではないかと考えたのだ。

「皐月会の名誉を守るため、名頃さんの口を封じたんだ!そしてその証拠が残ったカルタの映像を見て、矢島さんは気づいてしまったんだ。阿知波さんの犯行を!」

「しかし、あのカルタにはどんな証拠が!?」

「名頃さんの血が付いたカルタの束を、うっかり鷲掴みにしていたとしたら?」

「そうか、指紋か!!」

「俺もある写真を見るまで気づかなかったが、恐らくあのカルタには、阿知波さんの指紋が残っている。」

だからこそ矢島は、テレビ局に皐月会特集を持ち掛け、皐月会のカルタ札を映像に残すことを考えたのである。

「だからテレビ局爆破と、矢島さん殺しが同時に行われたんだ!」

しかし、服部にはもう一つわからないことがあった。
なぜ阿知波会長は皐月杯の決勝戦まで、犯行を引き延ばした理由だ。

「決勝戦が行われている皐月堂に、名頃さんの遺体があるとしたら?」

「確かに…絶好の隠し場所やな。初めからすべて計画されていた犯行ちゅうわけか!!」

「完璧な計画で名頃さんを犯人に仕立て上げたとしても、のちのち遺体が発見されたら、元も子もないからな。」

そしてようやく2人は、皐月堂裏にある崖に到着。
火の手はすでに、和葉や紅葉がいる皐月堂に迫ってた。

服部は「火を消すことだけ考えてといてくれ!」とコナンに言い、さらに速度を上げる。

「おい、まさか!!嘘だろ!!」

「いくで、工藤!!」

服部のバイクは、そのまま皐月堂に転がり込むような形で突っ込んでいく。

「いけー!!」

「っ…なんやの!!」

皐月堂の中にいた三人も、さすがにバイクが突っ込んできて壁の一部が崩れたことで、ようやく外の異変に気がついたらしい。

コナンはヘルメットを投げ捨て、皐月堂の横を流れる滝近くの柱にボール射出ベルトを取り付ける。

「よし、膨らめ!!急げ、間に合ってくれ!!」

膨らんだボールにより、滝の流れ変わったことで皐月堂に迫っていた火は無事に鎮火。
しかし、ホッとしたのもつかの間で、コナンと服部は真犯人になぜこんなことをしたのか追及しなければならないのである。

服部は、何が起こっているかわかっていない和葉と紅葉を背にかばい、阿知波会長と対峙する。

「ねぇ阿知波さん、このカルタ札調べられたらまずいんじゃないの?」

「事件の発端は、ちょうど一年前この場所で紅葉が優勝した時なんや。」

その時、彼女がとった札の重なりが、師匠の名頃が行ったある試合のものとよく似ていたことによって、一連の事件が発生したのである。

「皐月会のカルタの側面についたこのシミ。矢島さんはこのシミが5年前突然現れたことに気づいたんだ。」

「名頃さんの返り血が付いた手で、カルタを触った人物の指紋や。」

「名頃先生の返り血で…。」

「5年前に失踪したと思われてた名頃さんは、その時殺されとったんや。」

「え…っ。」

「そしてその指紋の主こそ、名頃さん殺しの真犯人。」

視線の先にいた阿知波会長は、肩の力を抜いて笑った。

「すべて自供しよう。その代わり、皐月会のカルタを証拠とするんはやめてくれへんか。それは皐月会にとって…。」

「なんだ…そういうことことか…。」

阿知波会長の言葉を聞いて、ようやくコナンの中で一連の事件が繋がった。

「どうしても理解できないことがあったんだけど、その態度でよくわかったよ。このカルタについてる指紋って、阿知波さんのじゃないよね!」

コナンの追及に、阿知波会長は慌てた様子で「私や!」と反論。

「確かに、今回の一連の事件はあんたと海江田の仕業や。けどすべての発端となった名頃さん殺しはあんたやない!」

「皐月さんだよね。」

5年前の真実

「その光景を見て…私はすべてを悟った。」

「名頃が勝負を挑み、皐月が敗れたことを。」

読手には、阿知波会長が吹き込んだカセットテープが使用されており、圧倒的に皐月が有利な条件だったにもかかわらず、彼女は敗北し、翌日屈辱的な敗北をするかもしれないという恐怖から名頃鹿雄を殺めてしまったのだ。
その後、皐月は人としての感情を失い、皐月会の会長の座を降り、数年後に病没したのである。

「これが真実だ。」

阿知波会長は、懐から起爆スイッチを取り出す。

「みんなわかってくれ…あの男が皐月を辱めなければ、こんなことには…。」

しかし、その言葉に真っ向から反応したのは、名頃鹿雄の一番弟子であった紅葉だ。

「辱めたくなかったから!!前の日に先生は行ったんやと思いますけど。」

彼女は昔、「なぜ皐月会を目の敵にするのか?」と尋ねたことがあったそうだ。
しかし、名頃は別に皐月会を目の敵にしているわけではなく、そのような手段にでなければ、自分の望みが叶えられないことを知っていたからだ。

「ただ…勝って強いなぁって褒められたいだけなんやけど…、初恋の相手にな。」

名頃は皐月に憧れてカルタを始め、ずっと彼女と対戦したいと思っていた。
しかし、目の病を患ってしまい、あと少ししかカルタを続けることができないと知り、強引な手法で皐月との対決を叶えようとしたのだ。
「じゃあ前日の勝負で実力を見せて…みんなの前では皐月さんに勝ちを譲るつもりだったと…。」

「面倒みられへんようになってしまう、うちを含めた自分の弟子たちを皐月会に引き取ってもらう理由付けをするために。」

「そうとは知らず…皐月さんは名頃さんを殺してしもうたっちゅうわけか…。」

5年前の真実が、真実ではなかったと知った阿知波会長は、顔色を悪くし「そんな…っ。」と崩れ落ちる。
そしてその手が離れた起爆スイッチは、服部の手によって回収された。

「私は…、私は…っなんてことを!!」

泣き崩れてしまった阿知波会長を、コナンは痛ましそうな表情で見つめた。

脱出

しかし、次の瞬間、大きな振動が皐月堂にいた面々を襲う。
火災によって破損した箇所が、崩れ始めたのである。

「みんな、早くエレベーターに乗って!!」

コナンの声を合図に、服部は紅葉と阿知波会長にエレベータへ向かうように声をかける。
阿知波会長は、自分のした愚かな行為を反省し、「置いていけ。」と告げるが、服部がそれを許さない。

「あほ抜かせ!!まだあんたを死なせるわけにはいかんのや!!」

そうして、紅葉と阿知波会長がエレベーターに乗り込み、コナンはエレベーターが落ちないように伸縮サスペンダーで細工を施す。
その間に、服部は立てなくなった和葉を回収しようと懸命に手を伸ばすが、皐月堂が大きく傾き、投げ捨てられていたバイクに押しつぶされてしまう。

そして、エレベーターもついに落ち始めてしまったのだ。

「くそぉぉぉぉ!!」

伸縮サスペンダーで勢いを殺していたとはいえ、急速に落下したエレベーターは箱ごと皐月堂の外に投げ飛ばされる。

さらに伸縮サスペンダーが付いた鉄筋がエレベーターに向かって飛んできたので、コナンはすかさずキック力増強シューズのダイヤルを回して跳躍した。

「させるかぁぁぁぁ!!」

その後、蹴り上げた鉄筋が崖に生えた木に引っかかったので、エレベーターは落水を免れ、代わりに池に落ちたコナンも軽症で終わったのだが、崩れ落ちる皐月堂には服部と和葉が取り残されていた。

(服部…和葉ちゃん…っ、頼む、なんとか抜け出してくれ!!)

コナンが祈るような気持ちで皐月堂を見上げていたころ、残された服部は、バイクを起こしその後ろに和葉を乗せてエンジンをふかせていた。

「平次、あれ!!」

和葉の視線の先には、白骨化した遺体とダイナマイトが転がっていた。

「しっかり捕まっとれよ。」

そういう服部の手には、起爆スイッチが握られていた。

「あんたまさか!向こうの壁まで飛ぶつもりやないやろな!!」

明らかに無謀と思える行為に、和葉は大反対するが、彼らに残された道はこれしか残されていない。
皐月堂ほどの高さから落水すれば、水面はコンクリートのように固くなるので、命が助かる保証がないからだ。

「しっかり捕まっとけよ、和葉!その手離したら…殺すで。」

「うん!!」

「こんなところで、死んでたまるか!!」

服部はエンジンをフルスロットルで回し、勢いよく皐月堂から飛び出した。

「まだお前には…言わなあかんことがあるねん!!」

そう叫びながら、彼は起爆スイッチを押す。
皐月堂に仕掛けられた爆弾は大きな爆風を生み、その勢いで服部のバイクは壁に向かって飛んでいく。

「届けぇぇぇぇっ!!」

服部のバイクは勢いよく、向こう側の壁に到着。
着地の勢いで和葉の体は吹き飛ばされてしまったが、服部が崖から落ちる寸前のところで手を掴んだので無事であった。

「ところで平次…私に言わないかんことって何?」

カルタの特訓で鍛えられた彼女の耳は、爆風の中叫んだ服部の言葉をきちんと拾っていたのである。

「さぁ文句があるなら言うてみ!!」

しかし、服部は彼女に言いたいことを言えず、水の中を逃げ回ることになったのであった。

エピローグ

コナンたちが東都へ帰る日、見送りに来た和葉はカルタ部が廃部を逃れたことを伝える。
彼女は最後の最後で紅葉に負けてしまったそうだが、絶対に取りたいと思っていたカルタ札をとれたことで満足しているらしい。

彼女はそのカルタ札を使って、服部に自分の気持ちを伝えようと考えていたようだが、そこへ紅葉が乱入してくる。
彼女は和葉との勝負に勝ったため、正式に服部に交際を申し出ようとしていたのだ。

しかしそこで、過去に紅葉と服部が約束した内容が明らかになる。
紅葉は「今度おうたら嫁にとったるさかい、待っとけや。」と聞いたのだが、服部は「今度おうたら、もっと強めにとったるさかい、腕磨いて待っとけや。」と言っていたのだ。

自分の勘違いだったことを知った紅葉は、颯爽と去っていく。
しかし去り際、和葉に向かってこう言ったのだ。

「今日はこの辺で勘弁しといてあげますけど、うちは狙った札は誰にもとらせへんちゅうことを、よう覚えといてもらいましょか。」

「和葉ちゃん。」

その後、東都に帰る新幹線の中で、蘭は園子に電話をかけていた。
新一に紫式部のカルタ札を送ったところ、その返事としてあるカルタ札の写真が添付されてきたそうだが、意味がわからなかったのだ。

(忘れてんじゃねえよ。)

感想

劇場版で多くの女性がまず最初に感じた感想は、「なぜ隣に平次くんがいないのだろう…。」ということでした。
まず、私自身「名探偵コナン」という作品は好きなのですが、少年誌特有の恋愛観が苦手で、「から紅の恋歌」というタイトルから、今回は見るのを止めようと考えていました。
しかし、SNSで上記のような感想が流れてきたので、気になって観に行くことを決意したのですが、私も最後には「なぜ隣に平次くんがいないのだろう…。」と思ってしまいました(笑)

ちなみに、「から紅の恋歌」は「純黒の悪夢」を5億円ほど上回る結果を残しました。
しかし、2016年の段階では多くのファンが「純黒には勝てないだろう。」と評していました。
もちろん人によって評価はわかれるところですが、大人のイケメン二人組に、幼馴染の恋人候補がいる平次では太刀打ちできないと多くの人が思っていたからです。
そのため、映画を実際に見てみると、純黒に負けないくらいハラハラドキドキする内容だったので、こちらの作品もすごくおすすめです。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、本編の感想に移りましょう!
まず、映画公開前の舞台挨拶で、「今回は爆発が控えめ」と紹介されていましたが、いったいどこが控えめなのでしょう(笑)
そして、爆発するビルの中に取り残された服部ですが、いくら一人でどうにかできないとはいえ、身体は小学1年生のコナンに助けを求めるのはどうかと思います。
さらに、一人炎の中に取り残されたコナンは、最初からクライマックスでした。
映画ではお馴染みである「蘭…っ。」の台詞がこんなに早く聞けるとは思わなかったし、アンテナにベルトをひっかけてスケボーで回るという荒業にはびっくりしましたね。
純黒でも人間をやめてる2人がいましたけど、コナン君も最近びっくりどっきり人間化しているような気がします。(昔からかな?)

次に、映画公開前から原作にも登場した、自称平次くんの婚約者、大岡紅葉ですが、彼女は本当に可愛いと思います。
本来であれば、平次と和葉を邪魔する嫌な子という役割をもったキャラクターなのに、節々に見えるドジなところとか、本当は優しい子だとわかる演出に、憎み切れない可愛い脇役という印象があります。
今後も原作、アニメに登場しそうなので、目が離せない女の子です。

最後に、平次と和葉についてですが、この二人は自然に応援できるカップリングですね。
作中では和葉の方が平次のことを好きだと思うことが多いのですが、今回の映画では平次も和葉のことをすごく大切に思っていることがよくわかりました。
そして崩壊する皐月堂から脱出するシーンの、「殺すで。」の台詞に、多くの女性が心を動かされたはずです。
幼い時から服部平次のことは知っていましたが、20年以上の月日を経て、なんて男前に成長したのでしょうか。
そして、その結果が興行収入No.1に結び付いたのですが、彼の天下はあっという間に、ある男に奪われてしまうのです。

名探偵コナンの映画では、エンドロールの後に翌年公開される映画の告知が入ります。
そして、今回の告知は、それまで平次君のかっこいい姿に胸を踊らせていた女子を、一瞬で虜にしてしまったのです。

その男こそ、2018年に公開された「名探偵コナン ゼロの執行人」のメインキャラクター安室透(降谷零)です。
たった一言、「ゼロ」のつぶやきだけの告知で、多くの女性を魅了した安室という男は恐ろしい人物です(笑)
「ゼロの執行人」についても、近々あらすじをまとめようと考えていますので、ぜひお楽しみに!

 

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