タイトル:「夜空はいつでも最高密度の青色だ」
公開:2017年
監督:石井裕也
出演:石橋静河、池松壮亮、市川実日子、松田龍平、田中哲司 ほか
視聴したVOD:dTV(2018年11月4日までは視聴可)
詩人、最果タヒによる同名詩集の映画化です。
眠らない街、東京で看護師をしながらガールズバーで働く美香。
左目の視力をほとんど失っている、日雇い労働者の慎二。
不確かな不安を抱え、曖昧に「死」を身近に感じながら生きる二人の、不器用な人生と恋愛を描いた作品です。
2017年の第91回キネマ旬報ベスト・テンで日本映画1位を獲得、若者から共感と支持を受けたラブストーリー。
慎二と美香が放つ言葉が、粒子のように観る者の心に入り込んできます。
あらすじと感想をまとめてみましたのでご覧ください!
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』配信先一覧 | |||
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【あらすじ】
『東京で生きる』
東京、たくさんの人達で溢れかえる街。
看護師の美香(石橋静可)の病院で38歳の若い主婦が亡くなった。
合掌し、遺体を見送る美香に、泣き崩れる家族は「お世話になりました」と言う。
そんな家族を後目に「大丈夫、すぐに忘れるから」と美香は冷ややかに思った。
夜、美香はネイルを塗り身支度を整えて出かけた。
昼間は看護師、夜はガールズバーでアルバイト、それが美香の生活だ。
都会を好きになった瞬間に自殺したようなものだ。
この星に本当の恋愛なんてものはない。
心の中で繰りかえされる美香の想いは、どこまでも排他的だ。
建設現場で日雇い労働をしている慎二(池松壮亮)は左目がほとんど見えない。
同じ仕事仲間、フィリピン人のアンドルス(ポール・マグサリン)、首に謎の傷跡があるキレやすい智之(松田龍平)、慢性的な腰痛を訴える中年の岩下(田中哲司)とはいつもつるんでいた。
腰痛のため、思うように働けない岩下が心配。
借金があるのに毎晩部屋で大勢の友人と遊び惚けるアンドルスが心配。
智之の首の傷が心配。
いや、心配ではなく智之は目に映る何もかもが不安なのだ。
その不安のため、慎二はいつもうるさいほど喋る。
見えない左目で見る世界のように、慎二はいつも得体の知れない不安に駆られていた。
『どうでもいい奇跡』
ガールズバーに通うのが唯一の楽しみの岩下。
しかし、腰痛で仕事も減り経済的に追い詰められた岩下にとっては、ガールズバーは痛い出費だ。
そんな岩下を励ますために、慎二の奢りで智之も連れだって一緒に行くことにした。
渋谷のガールズバー、そこには美香がいた。
美香を見て慎二は驚いた。
以前、渋谷の居酒屋で見えない左目を隠して小説を読んでいた時に、自分を見つめている女性がいた。
それが美香だったのだ。
そんなことを知らない智之は美香を気に入り口説いていた。
帰り道、渋谷の街を歩く慎二は偶然に美香に会った。
「なんで何回も会うんだろう?東京には一千万人も人がいるのに、どうでもいい奇跡だよね」
美香にそう言われても、慎二はまともに返すことができず、無暗に喋りまくる。
そんな慎二を見つめ、美香は言った。
「喋ってないと不安なんだろうね」
不意を突かれ、慎二は黙ってしまう。
「俺は変だから」
「へぇ、じゃ私と一緒だ」
美香は表情を変えずそう言った。
夜空には、雲の隙間から青い月が出てきた。
月を眺め、嫌な予感がする、という慎二。
「わかる」とだけ答えて、美香は帰っていく。
不安を煽る青い月は、しかしとても美しかった。
『智之の死』
智之と美香は携帯の番号を交換したようで、連絡を取り合いデートを重ねているようだった。
仕事の昼休み、美香と撮った写真を自慢げに見せる智之。
その直後、智之は突然倒れてしまい、そのまま帰らぬ人となった。
智之の死因は脳梗塞。
葬儀は親族は参列せず、仕事仲間や友人だけの簡素ものだった。
焼香に来た美香。「俺に出来ることがあれば何でも言ってくれ」と励ます慎二。
しかし、美香は「死ねばいいのに」と突き放す。
ある日、仕事の現場で腕にケガをした慎二。
治療に行った病院で、看護師姿の美香に会い驚く。
二人は気まずい空気のまま休憩場所で煙草を吸い、しかし別れ際に連絡先を交換した。
実家に帰省した美香。
美香の母親は亡くなっており、いくら聞いても詳しい死因を話さない父に美香は釈然としない。
高校生の妹は、彼氏と一緒に東京の大学に進学するのだと浮かれている。
美香は自分を取り巻く全てに苛立っていた。
幼かった頃、母と一緒に歩いた光景を想い出す。
「大丈夫、すぐに忘れるから」そう呟きながら、美香は一人泣いた。
『会いたい』
慎二は部屋で一人、生活費の計算をしていた。
家賃、食費、携帯代、光熱費・・・、しかし、現実的な計算の最中にとりとめのない想いが入り込んでくる。
震災、テロリズム、シリア、智之が死んだ、会いたい・・・。
「会いたい」、慎二はメールを送り、それは実家で一人泣く美香の元へ届いた。
東京に戻った美香と慎二はデートをした。
この日の慎二はあまり喋らず、美香は一方的に話し続ける。
後ろ向きで、世の中のもの全てを疑い、斜めに見ているような美香の話は延々と続く。
死についてばかり話す美香に、慎二は「死ぬ話はやめろ」と言うが美香は聞かない。
結局、夜の東京を延々と歩き続けただけで二人は別れた。
部屋に戻った美香の元に、元カレからメールが届いた。
「まだ愛してる」と書かれたメール、実際に元カレに会っても美香の心は冷ややかなままだ。
愛は、今までさんざん人を殺してきたから、血の匂いがする。
美香にとって「愛」という言葉はもっとも信用できない言葉だ。
同じころ、慎二宛にも高校の同級生だった女性からメールが届いた。
メールには「愛してた」とあり、驚く慎二。
その女性と会うことになったが、慎二はその子と話したこともなく友達ですらなかった。
しかし、高校時代ずっと慎二のことを愛していたという彼女。
慎二はとても信じることができなかった。
慎二と美香、二人はそんなデートの最中にメールを送りあった。
「まだ愛してるって言われた」
「俺は、愛してたって言われた」
慎二と美香はそれぞれ別の人と過ごす中で、お互いが特別な存在になりつつあることを知ったのだ。
『美香の元へ』
慎二のアパートの隣人の老人が死んだ。
慎二は、その老人の頼まれごとを聞いたり、本を貸してもらったりと交流があった。
老人の死因は熱中症で、死後二日経っていた。
身近な死に沈痛な想いの慎二に、岩下は励ますように言った。
「幸か不幸か俺は生きてる、お前も生きてる」
そうして岩下は、今恋をしている、これからデートだ!と言って走って帰った。
腰の悪い岩下の走る姿を見て、慎二も美香の元へ走り出した。
そんな慎二の耳に、ストリートシンガーの「頑張れ!」という歌声が聞こえた。
頑張れ、俺に言ってるんだ!慎二にはその歌が自分への応援歌に思えた。
ようやく美香の暮らす寮にたどり着いたが、美香から「女子寮なので男の人は入れません」とメールで拒否され凹んでしまう。
しかし、朝まで寮の前で待ち続けた慎二を美香は部屋へ迎え入れた。
お互いぎこちないまま会話もちぐはぐだが、バス停まで一緒に歩く途中で二人は飛行船を見た。
顔を見合わせ「ラッキーだったね」と言う美香に慎二は言った。
「なんだか、とてつもなく良いことが起こりそうだ」
『希望の芽』
付き合うようになった慎二と美香。
しかし、相変わらず不安を抱え続ける美香だったが、慎二にとって美香の存在は光だった。
ずっと続いていた曇天の雲の隙間からやっと差し込んだ太陽の光。
職場では、腰痛が限界になった岩下が辞めることになった。
彼女にもフラれてしまい職も失った岩下だったが「死ぬまで生きるさ」と言って去っていった。
そして、アンドルスもフィリピンに帰ることになった。
慎二は美香の実家に挨拶に行った。
しかし、相変わらず素直になれない美香。
田舎道を自転車の二人乗りで走りながら、慎二は言う。
「嫌なこと、全部俺が半分にしてやる」
東京に戻ってきた二人。
本当に幸せになれるのかな?とぼやく美香だったが、その時聞き覚えのある歌が聞こえてきた。
以前「頑張れ」と歌ってたストリートシンガーがデビューすることになったことを知り、二人の顔には驚きと喜びがあふれた。
夜、テレビを観ながら過ごす二人だったが、美香は「朝までに何か起こるかもしれない」と不安を口にする。
地震や災害、テロ、何が起きてもおかしくない不安な世の中。
そうなったらどうする?という美香に慎二は「とりあえず、募金する」と答えた。
それを聞いて「そうだね、募金しよう」と泣きそうになる美香。
「朝起きたら 『おはよう』って言おう、ごはん食べる前には『いただきます』って言おう。そういうことだよね」
慎二は美香の頭を撫で、美香は泣きながら「ありがとう」と言った。
不安は無くならない、嫌な予感は消えない、これからいつまでも続くかもしれない。
だが、慎二と美香の間には小さな、とても小さな希望が芽生えていたのだった。
感想
全く内容など知らず、ただタイトルが良いなと思ったのと池松壮亮くんが好きなので選んだ映画でした。
観始めてすぐ、ヒロインの美香が可愛くないし、なんか面倒くさそうな女だなぁ~と感じて、もしかしてこの映画ハズレだったかな?と思ったのです。
だけど、観ていくうちにすごく引き込まれていきました。
リアルに現代を生きている慎二と美香の抱える不確かな不安は、誰にもあるもの。
人の死、災害、戦争、環境問題、自分の力だけではどうにもならないことは、わからないふりをするしかない。
そもそも、自分の力なんて本当にちっぽけだ。
だから、考えないようにして笑うしかない。
美香は、そんなうやむやにして隠している気持ちを全部吐き出しているんです。
だから、最初は美香に嫌悪感を抱いてしまったんですよね。
もうそれ以上言わないで、痛くて聞いていられない、といったところでしょうか?
だけど、どんどん美香の言葉が観ている自分のものになっていくんです。
痛痛しいほどに正直な美香を「包み込む」というにはあまりにも貧弱な慎二の愛情。
しかし、確かに慎二の愛が美香を救っています。
そして、最初可愛くないと思った美香が、どんどん愛しく見えていきます。
慎二は、世の中に対して美香と同じように感じながらも、美香ほど悲観的ではありません。
きっと難しいことを考えるのが苦手な質で「何とかなる」というところに落ち着いてしまうんです。
でも、それが無責任な他力本願的なものじゃなくて「何とかなる。明日俺が少し動き出せば、いつか何とかなる」と考えられる慎二は、実はとても強い男なのかもしれません。
静かな映画だけど、色々考えてしまって見応えがありました。
結構すぐに死んでしまったけど、松田龍平も存在感がありましたね。
あと、岩下役の田中哲司がすごくいい!
情けなくって、もう本当に色々絶望的なんだけど、でも岩下は案外今も元気に生きている気がする。
この映画に出てくる人達、すごく身近な気がして、みんなどこかで会ったことがある気がしてしまいます。
人を選ぶ映画かもしれないけど、とても良かったです。
ラストシーンの慎二と美香の表情で、すごく幸せな救われた気持ちになりました!

音楽と本とコーヒー好きのアラフォーママです。育児で大好きなライブに行けないストレスをおうちでドラマ&映画鑑賞で発散しています。コンビニスイーツにも癒されております。
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