『コーヒー&シガレッツ』のあらすじ・感想・ネタバレ~コーヒー好きな人も、そうでない人も、見て味わってほしいこの世界観~ | VODの殿堂

映画

『コーヒー&シガレッツ』のあらすじ・感想・ネタバレ~コーヒー好きな人も、そうでない人も、見て味わってほしいこの世界観~

   
 

タイトル:コーヒー&シガレッツ
公開:2003年
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ロベルト・ベニーニ、スティーヴ・ブシェミ、イギー・ポップ、トム・ウェイツ、ケイト・ブランシェット、メグ・ホワイト、ジャック・ホワイト、アルフレッド・モリーナ、スティーヴ・クーガン、ビル・マーレイ、ほか
閲覧したVOD:Amazonプライム・ビデオ(2018年8月6日時点では配信終了)

1エピソードが10分前後の短編が11本おさめられた、ジム・ジャームッシュ監督・脚本のオムニバス映画。
まだ日本でミニシアターブームの余韻が残っていた、もはや『古き良き時代』と言ってもよい頃の良作で、とにかく、コーヒーとタバコとともに繰り広げられる、どうでもいいとしか言いようのない、ゆるーいノリの話が、なんともいえない味わい深さを出しています。
全編モノクロで描かれているのも、ジャームッシュらしさが感じられると同時に、2000年代初頭の映画とは思えない、もっと昔の時代にタイムスリップしてしまったかのような錯覚を覚えるのもいい感じ。
監督自身も、この映画については「コーヒーでも飲みながら、リラックスして観てね」というステキなメッセージを残してくれているので、構えずにぼーっと見ることをオススメします。
でも、ぼーっと観たものの、きっと心には結構くっきり残る作品になるはずですから。

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あらすじ

変な出会い

1人の男が落ち着かない様子で、タバコを吸いながら震える手でコーヒーを飲んでいる。
やがて、そこに1人の男がやってきた。
コーヒーを飲んでいた男は待ってましたとばかりに立ち上がり、やってきた男と握手をする。
「スティーヴ?」
「スティーヴンだ」
テーブルの上には、今飲んでいるものも含めて5つのコーヒーカップがあり、男がは緊張していることを伝えると、スティーヴンも「俺もだ」と答える。
男はスティーヴンに「落ち着くんです」とコーヒーをすすめると、スティーヴンはまた「俺もだ」と返す。


男は相手の名前を「スティーヴ」と再び間違えながら「どうします?」と尋ねると、「ゆっくりくつろいでタバコでも…。タバコとコーヒーはよく合う」と答えるスティーヴン。
だが、目の前に並んだコーヒーを見て「君はちょっと飲みすぎじゃないのか…?」とスティーヴンが指摘するが、男は「全然!コーヒーは体にいいです」と平気なようだ。
スティーヴンは寝る前にコーヒーを飲むと、インディ500のような猛スピードの夢が見られるらしい。
話題はタバコのことに移ったかと思うと、男はスティーヴンに「私の母を知っていますか?」と出し抜けに聞くので「僕が君の母親を?いや、知らないと思うよ」と言い、今度はコーヒーのことを話すことに。
コーヒーを凍らせて棒をつけてアイスキャンディにして子どもに食べさせたらいいと思うというスティーヴン。
居心地が悪そうなのを察してか、互いの席を替わってみるが、やはりしっくりこずに、また元の席に戻る2人。
いたたまれずに男がいつまでここにいるのかとスティーヴンに尋ねたところ、彼は歯医者の予約があってすぐに出なければならないのだが、実のところスティーヴンは歯医者が嫌いで、行くのは気が重いと独りごちる。
男は「僕はとってもヒマなんです」と言うので、スティーヴンが「僕の代わりに行くかい?」と提案すると、喜んで行くという。
最後まで名前を「スティーヴ」と間違って呼び続けた男は、スティーヴンに歯医者のカードをもらって歯医者へと向かうのだった…。

双子

男女が2人、ダイナーの片隅でタバコを吸いながらコーヒーを飲んでいる。
「メンフィスに来るなんて…」と不満げに男の方が言うと、一緒の女は「あんたの発案でしょ?」と言い返す。
女が自分でタバコの葉を紙で巻いてタバコを吸おうとすると、「安いタバコを吸うなよ。嫌いなんだ」と男は嫌がり、自分が持っている普通の紙パックのタバコの方が新鮮だと言うが、女は「葉が新鮮だ」と引かない。
そこへウエイターがやってきて、コーヒーのおかわりはどうかと尋ねると、男は「いいや」、女は「ええ」と全く同時に答える。


ウエイターがコーヒーをこぼして、男女は不機嫌になるが、ウエイターは意に介さず、彼らが注文したものはコーヒーだけなので「コーヒーとタバコだけなんて体に悪いよ」とサンドイッチを勧めるが、男女は全く同時に「いらない」と返す。
「この土地の人?」と尋ねられた男女は同時に「違う」と答え、「君たちはきょうだい?」と聞くと、男は「違う」、女は「そうよ」と言う。
不思議に思ったのか「君たち双子?」とウエイターが聞くと、また男は「違う」、女は「そうよ」という返事。
ウエイターは2人がアニメのおしゃべり鳥のヘッケルとジャッケルに似ていると言い、「どっちの方がワルなの?双子ってそういうもんだろ?」と聞いてみるが、2人はその問いには無反応で、代わりに「このコーヒーはマズい」と男が言う。
だが、女はウエイターの質問に反応し、「どっちがワルに見える?」と聞き返してきたので、ウエイターは「絶対こっち(男)だ。目つきが悪いもん」と言いながら「冗談だよ」と笑った。
さらにウエイターは「ヒマだから」と2人の間に座って居座ることにし、この近くにエルヴィスの家があることもあって、エルヴィス・プレスリーが双子だったという話を始める。
エルヴィスには双子の兄のジェシー・ギャロンという存在がいて、死産だったと伝えられているが、ウエイターの考えでは母親が双子の子育てに困ってジェシーを里子に出したと考えている。
ジェシーは弟の存在を知らずに育ち、1968年ごろになって鏡を見て自分がエルヴィスそっくりであることに突如気づき、メンフィスにやってきてエルヴィスと感動の対面を果たしてから、一晩だけエルヴィスの代わりをやらせてほしいと頼むと、エルヴィスは替え玉コンサートを開いて客の反応を見た。
これが大成功だったため、音楽業界に疲れていたエルヴィスは、替え玉のジェシーをツアーに出すことにしたのだが、ベガスで突拍子もないデカい襟のついた白いジャンプスーツで登場するだけでなく、甘いものばかり食べてブクブクと太り始める…。
そこで、マネジャーの大佐はたまらず悪いクスリをジェシーに飲ませて、エルヴィスの替え玉を毒殺したのだ、というのがウエイターの話だった。
「で、オチは?」と尋ねられたウエイターは「君たち、エルヴィスのファン?」と尋ねると、2人とも「いいえ」と同時に答える。
女は代わりに、オーティス・ブラックウェル、ジュニア・パーカーの2人を知っているかと尋ねるが、ウエイターは知らないと言う。
「やっぱりね。エルヴィスがパクった音楽家よ。10ドルぽっちで黒人から曲を買ってた」と、エルヴィスには否定的な見方の女に、ウエイターは「おれが思うに、それは替え玉の方だよ」と言うが、「替え玉ならいいわけ?」と返されてしまう。
今度は男も「エルヴィスの名言は『黒人の世話になるのは靴磨きだけ』ってやつ」と言うと、ウエイターはやっぱり「それは“キング”じゃないよ、きっと替え玉の方さ」と答えるのだった。
そこで、ウエイターは店のボスに呼ばれてしまい、「すぐ戻るよ」と席を立つ。
ウエイターのことを「イカレたイモだぜ」と男がいい、双子の男女は「乾杯!」とマズいコーヒーを飲むのだった。
そこで、女の方が、男が自分のシャツを着ていることに気づく。
「私のコピーばっかり!」と女は言うが、男の方が「これが自分のスタイルだ」と言い張る。
テーブルに2人が足を上げると、男が女の靴を履いていることに気づいて、「それ、私の靴よ!」、「いや、違うね」と、また口論になるのだった…。

カリフォルニアのどこかで

古めかしいダイナーで、コーヒーを飲むとキョロキョロと辺りを見回すイギー・ポップ。
やがて店に入ってきたトム・ウェイツが、彼の席に一緒に座る。
自分のことをジムと呼んでほしい、と伝えるが、「やっぱりイギーだ。イギーと呼んでくれ」と言うイギー。
だが、その矢先トムは「遅れてすまない、ジム。4台の玉突き事故さ」と遅れた理由を話し始める。
トムは朝の9時に赤ん坊を取り上げると、ここへ向かう途中に事故現場に遭遇して、ボールペンで気管切開手術をしなければならず、かなり壮絶だったらしい現場のことを語る。
イギーはそこで「君って医者なの?」とトムに素朴な疑問を投げかける。
トムは当たり前のように「ああ、そうだよ。音楽と医学の2つを重ね合わせたことをやってる」とサラリと答え、よく曲にもそれが表れていると言われるのだそうだ。
それに対して理解を示し、曲の構造が医者っぽくて博愛主義で、命を大切にする心や思いやりが表れていると答えるイギー。
待たせて悪かったというトムにイギーは、コーヒーを飲んでいたし、トムの分も注文しておいたと言うと、トムの顔色がさっと変わり「俺の分を…?」と聞き返す。
「悪かったかな…?」と言うイギーに、気を取り直してか「かまわないよ」とトムが言うので、イギーはトムのカップにコーヒーを注ぐ。
2人で一口味わうと、トムが卓上に置いてあるタバコに目を止め、「これは君のか?」とイギーに尋ねる。
タバコは先にこのテーブルに座っていた客の忘れ物で、2人とも禁煙したことと、それをたたえ合うように話し、いまだに吸っている人たちが哀れでバカだよな、と話す。
だがトムは「タバコをやめてよかったよ。禁煙しただろ?だから堂々と吸える」と、謎の理論を披露するとタバコを吸い始め、イギーにも勧めて、結局2人で吸うことに。
イギーは「うまいな、感謝するよ」と喜びの声をあげると、トムは「分かったろ?やめたからこそだ」と言う。
「コーヒーとタバコは最高のコンビネーションだ」と言うトムに、「俺たちはコーヒー&シガレッツ世代なんだよ」と語るのだった。
トムはこの店の常連だというが、ジュークボックスにトムの曲が1つも入っていないことを指摘したイギーに気分を少し害された様子で「ここがイヤなら、ファーストフードのタコベルにでも行くか?」とトムが言うと、イギーは「じゃあ俺がはタコベル的人間ってことか?」と困ったように聞き返す。
この店が気に入らないっていうから…タコベルじゃなくてもアイホップでもいいんだぜ、と言うトムに対し、そんなこと言ってないしこの店がいい、と答えるイギー。
「でも、アイホップのコーヒーはイケるよな」ということで2人の意見はまとまった。
次にイギーが、この前組んだ“ジャイアント・ロボ”と呼ばれるドラマーが、体も大きくて演奏もパワフルだったので、トムにもぜひ教えようと思ったのだと伝えると、「おれがヘタだから、ドラマーを雇えということか?」とトムはまたもや気分を害した様子。
イギーは、ただ単にすごいミュージシャンを見つけたから教えようと思っただけなんだよ、と話すと、やっぱりトムは「俺のアルバムはドラムが悲惨で、いいドラマーが必要ってことなのか?」と同じことの繰り返しになったので、イギーは「もう忘れてくれ…」と言い、2人は気まずい雰囲気に…。


意を決して、イギーは「そろそろ行かなくちゃ」と切り出すと、トムは「もう1杯どうだ?」と勧め、モーテルに残してきたというイギーの妻も呼んで一緒にコーヒーとタバコでも…と提案するが、イギーは「妻は自分の意志でタバコを吸わないんだ。このことは俺たち2人の秘密だぜ」と言って、「また付き合いを続けような」とあいさつをして店を出る。
せっかくノッてきたとこなのに…と残念がるトムは、ジュークボックスの曲のラインナップを確認して「ヤツのもないぜ」と鼻で笑ったあと、席に座ってコソコソと周囲を気にしながら、もう1本タバコを吸うのだった。

それは命取り

「お前はバカだ!まだタバコ吸ってんのか。タバコは害だ。命取りだぞ」とヴィニーに忠告するジョー。
ヴィニ―は以前に、身銭を切ってまで大企業を儲けさせることはないと禁煙を誓ったことがあったのだ。
そこへヴィニーの息子がやってくる。
息子は父親がタバコを吸っていたことに気づき、あからさまに煙たがるジェスチャーを見せ、父親はイライラしながら「母親には言うなよ!」と口止めする。
息子は一言も話さず、ジェスチャーだけでやりとりをし、父親にお金をせびるが「昨晩やった10ドルはどうしたんだ!」と叱る父親。
仕方なく5ドルを渡すが、もう少しくれというジェスチャーをする息子に、怒りながらももう1ドル渡す。
「6ドルやったんだからハグぐらいしろ!」と言われた息子は、ジェスチャーで「ハグは10ドル」と返す。
ハグをせずにそのまま出て行く息子に「体にいいものを食えよ!」と言う父親。
すかさずジョーは「父親みたいに、コーヒーとタバコをな!」と言うのだった。
「お前だってしこたま飲んでるじゃねえか!ポットを独占して!」と言うヴィニーに、「ポットで持ってくるんだから仕方ないし、コーヒーはエネルギー源さ!」と返すジョー。
「お前はカフェイン中毒だよ、お前はやめろ」と言うヴィニーに「言っとくがおれはやめないぜ」とジョーは言い、そこで2人はコーヒーカップで乾杯をするのだった。
ヴィニーがタバコを1本吸おうとしたとき、また息子が戻ってくる。
その手には豆菓子の袋があり、さっき渡した4ドルでこの豆菓子と飲み物を買ったというのだ。
「これはなんだ?」と聞くジョーに、ヴィニーが「中国の豆さ」と言うと、息子はジェスチャーで「違う、日本の豆だ」と言う。


息子はジョーに豆菓子をすすめ、一口食べたジョーはたまらず豆を吐き出す。
「なんじゃこりゃ!黒コショウをかじってるみたいじゃねえか!毒をよこしやがって!」と怒る。
ヴィニーはその様子を見て笑い「あの豆は高級なんだ。繊細で上品な味さ」と言い、息子が出て行ったタイミングでタバコに火をつけようとすると、「お前はまたタバコか!お前が死んだらタバコ会社に礼を言わなきゃな!」とジョーにぶつくさ文句を言われるので、「お前はうるさい女房みたいだな…」と、ついにヴィニーはタバコを吸うことをあきらめた…。

ルネ

カフェで1人、コーヒーを飲みながらタバコを吸い、雑誌を読んでいる女性。


そこにコーヒーのおかわりを、とウエイターがカップにコーヒーを注ぎ足した。
女性は「必要なかったのに…。色も温度もちょうどよかったのよ」とウエイターを静かにとがめる。
ウエイターが立ち去ると、彼女は改めて、ミルクと砂糖を少しずつコーヒーに入れる。
するとまたウエイターがやってきたので、女性はコーヒーカップの上に手をかざして、ウエイターを追い払う。
ウエイターは「コーヒーのこと、謝ります…」とその場を去った。
ほどなくして、またもやウエイターが戻ってくる。
同じように、女性はコーヒーカップの上に手をかざしていると「もしや、あなたの名前はグロリアでは?」と尋ねるウエイター。
「違うわ」とそっけなく答える女性に「友達の知り合いかと思って…失礼」と言い残してウエイターは去っていった。
再度ウエイターはすぐに戻ってきた。
コーヒーは彼女の手がカップの上にあるために注ぎ足せず、「なにか食べ物はどうですか?コーヒーと一緒にサンドイッチでも。ランチがコーヒーとタバコだけではちょっと…」と勧めるウエイター。


「ランチじゃないのよ、いい?」と返す女性に、再度「失礼…」と言ってウエイターは去る。
女性はまたけだるそうに、雑誌をぱらぱらとめくるのだった…。

問題なし

アレックスが、カフェでタバコを吸いながらコーヒーを飲み、暇を持て余すようにテーブルで2個のダイスを振っている。
やがて、イザックという友人がやってきた。
2人はハグをし、再会を喜んで、イザックは席に着く。
イザックの分のコーヒーは注文済みで、すでにテーブルの上にあった。
何もかもうまくっている、大丈夫だと言うアレックスとイザックはコーヒーで乾杯。
イザックはもう1度「本当に何もかも順調なのか?」と尋ね、アレックスは「ああ、何もかも順調だよ、お前は?」と聞き返す。
「まあまあさ。絶好調とはいかないけどな」と答えるイザック。
互いに会えて嬉しいよ、と言うが、そこから互いに会話が続かない。
「久しぶりに電話してきて会いたいと言うから何かあったのかと思って…」とイザックはアレックスのことを心配に思っている様子だ。
だがアレックスは「本当にお前に会いたかっただけだよ」と静かに笑みを浮かべて言う。
「本当に問題ないのか? 悩みごとでも?」とさらに尋ねてくるイザックに、アレックスは「おれが順調じゃ不満なのか?」と聞き返す。


電話をもらったときに何かあったと思ったから、てっきり相談事でもあるのかと思ったというイザック。
「イザック。おれは問題ない。いいな?」と言っても「確かか?」と聞き返してくるので「どうかしてるのか?」とアレックスはイライラしはじめた。
それでもまたイザックは「本当の本当に話したいことはないのか?」と言ってくるので、いよいよアレックスは「そんなに言うなら何か問題を作り出そうか?」と言い出ることに…。
あわててイザックは「問題なんていらないよ。俺はお前の親友なんだから…」と言いながらも「なんでも話していいんだぞ。相談事でもなんでも、腹を割ってさ」と言うイザックに「しつこいぞ…」とアレックスは鋭い目を向ける。
「イザック、おれは問題ない」と言うと、イザックは「じゃあそろそろ行くよ」と切り出した。
「もう?」と驚くアレックスに、「ああ、だってお前が話さないから仕方ないさ」とイザックは返す。
「すべて順調だと言ってるだろ? 問題はない」と再度念押しするアレックスに「ああ、それは分かったさ。でも、もし話したくなったら電話をくれ。きっと今は時期が悪いんだ」とイザックはやはり分かっていない様子…。
アレックスもついにしびれを切らし、眼鏡をとって鋭いまなざしをイザックに向けるが、イザックは意に介さず「なんなんだよ…まったく…」という表情で席を立つ。
「久しぶりに会えてうれしかったよ」というイザックに、「俺もだ。がっかりさせて悪いが、本当に何もないんだ…」とアレックス。
「分かってるよ」というイザックだが、アレックスは「いや、分かってない」と答える。
「また電話しろよ」とイザックは店を出た。
「またな。元気で」とアレックスはイザックを見送り、タバコに火をつける。
イザックのコーヒーはほとんど飲まれていない状態のまま残っている…。

いとこ同士

ホテルのカフェで、再会を喜ぶ2人の女性。
同じ顔だが1人は金髪で上品な雰囲気、やってきた黒髪女性はラフな格好でがさつな印象だ。
2人はダブルのエスプレッソを頼む。
ブロンドの女性はケイト・ブランシェット。
宿泊しているホテルで取材がいくつかあるのだが、部屋のセッティングの合間に会えれば…、といとこのシェリーを呼び出したというわけだ。
シェリーはタバコに火をつけ、ケイトにも1本すすめて2人でタバコを吸っていると、先ほど注文したコーヒーが運ばれてきた。


シェリーははじめ、ケイトのいとこだと認識されず中に入れなかったといい、外にはたくさんのパパラッチもいたとケイトに話す。
「心底イヤになることない? 私を見てよ。自由を満喫! お金はないけど、私を追い回す奴もいないわ」と言うシェリーは、一度ケイトと間違われて入ることができた店があったのだが、別人だと分かったらたたき出されたという話をする。
シェリーはケイトと雲泥の差の自分の境遇を卑下して話す傾向があるようだ…。
居心地悪そうに笑うケイトは話題を変えようと、シェリーのボーイフレンドの話をしようとするが、名前はうろ覚えの上、シェリーによるとそのボーイフレンドとはもう2年も前に別れたということだった。
今はミュージシャンのリーとつきあっていて、手紙にもそのことを書いたし、CDも送ったというシェリーだが、ケイトはそれを受け取っていないらしい。
シェリーは「付き人が忘れたのね…」とイライラしている。
「送り先を覚えてる?」とケイトが聞くと「さあね。あんたはロスにロンドン、シドニーと次から次へと毎日のように居場所が変わるじゃないの」と鼻で笑って返すシェリー。
ケイトは気を取り直して「そのCD聴いてみたいわ。どんな感じなの?」と尋ねると「ハードでメタリックでガンガン…きっと嫌いよ」と言うも、ケイトはバンド名を聞き出してCDを買って聴くわと歩み寄ったが…、CDは自主制作盤で、普通に買って聴くことができないらしい。
「じゃあ、送ってくれたCDを探して聴くことにするわ」と言うと「見つからないわよ」とシェリーに言われ、さらにシェリーは「たった今思い出したの。CDを送ろうと思ったけど、実は送ってなかった」と告白。
ケイトはそこで「忘れるところだった」とおみやげに用意していた高級な香水をシェリーに渡す。
コーヒーで乾杯をし、互いに会ってくれてありがとうと言い合ったのち、シェリーは「ゴージャスな販促品もね。企業からのでしょ? ジュエリーや服、たぶん車までいろいろタダでもらうんでしょ?」とイヤミを言い始めるシェリー。
「車はないけど、確かに化粧品はいただいたりするわ。でも、仕方ないの…。買い物に行くことができなくて…」とバツが悪そうなケイト。
「皮肉ね。お金のない者には高くて買えないのに、金持ちにはタダなんて…矛盾してるわ…」というシェリーに、「世の中、そういうものよ…」とケイトはうつむき加減に話す。
そこに、仕事の時間だという電話が入り、ケイトは自分の部屋に戻らなければならなくなった。
ケイトはシェリーに「見ても面白くはないけど、あなたも来る?」と誘うが、「インタビューを眺めてろっていうの? テレビ見てるみたいに?」と辛らつに返すシェリー。
ケイトはそれじゃあ、と席を立ち、「彼女のお勘定は私にツケといて…」と店員に言い残して「今度ルーに会わせてね!」と言って去っていった。
「リーよ…」とつぶやいてジャケットを脱ぐと、やってきたウエイターに「テキーラをダブルで、あとメニューを」とシェリーはここぞとばかりに頼む。
タバコに火をつけようとすると「すみません、禁煙です」とウエイターに言われ、呆然としながらタバコを箱に戻すシェリーだった…。

ジャック、メグにテスラコイルを見せる

『ホワイト・ストライプス』のジャックとメグがカフェの片隅でタバコを吸いながらコーヒーを飲んでいる。


ジャックの傍らにはテスラコイルらしき装置があり、しばらく2人は話をせずに互いの様子を探るように沈黙していたが、メグが「ジャック、テスラコイルの話をして」と切り出した。
「イヤがってただろ?」とジャックが聞き返すと「ちょっと前まではね」とメグ。
「だからオレもやめとくよ…」と言うジャックに「わざわざワゴン車運んできたんでしょ?話してよ」とメグが頼むので、ジャックはニコラ・テスラが発明したコイルをベースに作った、2つのコイルを共振させるエア・トランスの説明を始める。
「基本的には変圧器で、高周波で“低電圧・高電流”を“高電圧・低電流”に変える」のだという。
メグが小さいころに持っていたバービー人形の蛍光灯がついていた鏡台のことを持ち出し、蛍光灯もテスラの発明だと教えるジャック。
「彼がいなければラジオやテレビの選局はできなかった。レントゲンも誘導モーターもレーザー光線も、すべて存在してない」と力説するジャックに「ロックバンドの『テスラ』もね」と笑いながらメグが言う。
とにかくジャックはテスラに心酔しているようで、彼は天才だと称え、テスラの理論に注目していれば世界は違っていたとまで考えている。
「今ごろは、通信も交通もエネルギーもタダだったはずだ。だから無視されたんだ。彼は地球を1つの共鳴伝導体と考えた」と言うジャックに、メグは一言「ステキね」とだけ述べ、「コイルの実験をしない?」とジャックにもちかけた。
ジャックとメグはゴーグルを装着し、ジャックがゴム手袋をはめてスイッチを押すと、コイルがけたたましく放電をしはじめた。


何事かと、店のウエイターもその場に駆け付けると、コイルを見ると立ち止まって見つめる。
しばらくすると「ボフっ」と音を立ててコイルがショートしてしまった。
「作動しつづけるはずなのに! 失敗だ」と残念がるジャック。
メグが「GFIが作動したのかしら」と言うと、ウエイターも「ああ、漏電遮断器のことだ」とメグの意見に同意。
ジャックは「ああ、知ってるよ! でもそうじゃない」とイライラしながら答えるので、「八つ当たりするなよ…」とウエイターは部屋を出て行った。
しばらく思案していたメグは「共振コイルのスパークギャップが開きすぎたのよ」とコメント。
ジャックは「なんだって?」というような怪訝そうな顔をしてメグを見て「かもしれない。たぶん。いや、きっとそうだ。すごいな。チェック漏れだよ」とメグの意見に同意し、コーヒーで乾杯をする。
ジャックは早速、コイルを自宅でチェックすると席を立ち、メグとは明日のボウリングで会おうと約束して店を出た。
1人残ったメグは、コーヒーカップをスプーンで叩いて、トライアングルのように響く音を聞きながら「“地球は1つの共鳴伝導体”か…」とつぶやく。

いとこ同士?

アルフレッド・モリーナがスティーヴ・クーガンのアシスタントに電話をかけている。
アルフレッドはスティーヴが来るのを待っているようだが、まだ来ないので確認のために電話をしていたようだ。
ほどなくして、スティーヴがやってきた。
アルフレッドが注文していたのは紅茶で「本格的だね」と言うスティーヴ。
「もしアカデミー賞がゴールデン・グローブ賞をとったら、アメリカ人に紅茶の淹れ方を指南したいよ」と言うスティーヴと、アルフレッドは笑い合って紅茶で乾杯をする。
アルフレッドが褒めたスティーヴのコートはヴィヴィアン・ウエストウッドのもので、スティーヴはファッションも英国びいき。
「でも、暑くないか? 外は気温30度という暑さなのに…」とアルフレッドに指摘され、スティーヴは一呼吸おいて、これはエアコン対策だから外に出たら脱ぐんだと答える。
アルフレッドははじめ仕事でやってきたというロスに移り住んで7年で、いい街だと気に入っている。
スティーヴは「ロスは訪れるよりも去るのにむいている。あのヤシの木が耐えられない!」と言い、アルフレッドは「人それぞれだからね…」と苦笑交じりに返すのだった。
アルフレッドはスティーヴのコメディ番組の大ファンで、以前から会いたいと思っており、今回会えたことを嬉しく思っていた。


でも、スティーヴはアルフレッドにはあまり興味がない様子で、彼が何に出ているかもうろ覚えのようだ…。
アルフレッドが熱心にスティーヴの出演作品についていろいろと詳しく話すが、スティーヴはうわの空で、話をさえぎってタバコをアルフレッドにすすめる。
アルフレッドは後にとっておくよ、と吸わずに置いておき、スティーヴだけがたばこをくゆらせる。
「ところで、ローラからの伝言ではとにかく君が僕に会いたがっているというだけで、何がなんだか…」となぜ呼び出されたのかを不思議に思っているスティーヴに対し、「変に思われそうだから黙ってたんだ」とアルフレッドが今回スティーヴを呼び出した理由を話し始める。
アルフレッドは自分が、人の一生に起こるさまざまな出来事やめぐり合わせからなる隠された奥深い物語、つまり、“歴史”というものに魅了されてきていて、今回あるものを見つけたのだ、と1つのファイルをテーブルの上に差し出す。
スティーヴは映画か何かの作品だと思いこむが、そのファイルは仕事に関することではなく、アルフレッドがある家系図で発見したことなのだという。
そこに、スティーヴの大ファンだという女性がやってきて、スティーヴのサインを求める。
何かの紙にサインを、という女性の求めに、スティーヴはアルフレッドが出した卓上のファイルを手に取るが、アルフレッドは「これはダメだよ…」と取り戻した。
女性が去って、アルフレッドはまた説明に戻る。
単なる個人的な興味で調べていた家系図から、偶然にもスティーヴ・クーガンが自分といとこ同士だと発見したのだと言うアルフレッド。
スティーヴは事態が呑み込めず「どういう意味だ?俳優としてか?」と聞き返すが、アルフレッドは単純に「僕らは普通の意味でいとこなんだ。親戚なんだよ」と言う。
家系図では、アルフレッドの曽々祖父がスティーヴの大々おじさんで、共通の曽々々祖父を持つということが示されている。
アルフレッドはこの発見に興奮ぎみで、スティーヴ・クーガンがいとこだと自慢できることを喜んでいるようだが、スティーヴの反応は薄く、へぇそうなんだ…という感じだ。
さらには、アルフレッドのことをアルバートと言い間違えるなど、まったく興味がなさそうなスティーヴ…。
アルフレッドはこの驚くべき大発見と共通点をもとに、いとこ同士と分かった2人の俳優の物語を、舞台とか映画にできないか、と考えていた。
しかも、本人が共演して、劇中でもいとこ同士、というわけだ。
「傑作だぞ!すばらしいアイデアだ!」と興奮ぎみのアルフレッドを目の前にして、スティーヴはちょっと引いてしまった様子で、何も言えずにアルフレッドを見ている…。
「もしそれがダメなら、たまに会うだけでも…」と切り出したアルフレッドに「ああ、一緒にビールでも飲もう」と即答するスティーヴ。
「2人きりで休暇旅行に出かけるのもいいよね。お互いを知るために…」というアルフレッドの提案に、「…君はゲイなのか…?」とスティーヴが返す。
「いや、結婚してるよ」とアルフレッド。
かなり意表をつかれて困惑気味のスティーヴに「僕はいたって正気だし、こんな大発見はめったにないから、感動してるだけなんだ」と言うアルフレッドは「この驚くべき事実を認めて、ただ僕を愛してほしい」と語りかける。
ギョっとして、戸惑い気味に「ああ、できるよ…」とスティーヴは答えるが、あまりの居心地の悪さに、スティーヴは時間を見て「もうこんな時間だ…行かなきゃ…。アポを1つずらしてるんだ」と切り出し、家系図を1部、自分のコートの内ポケットに入れた。
「もし帰国前にまた会えたら…」というアルフレッドに、スケジュールをしばらく考えて「ムリそうだな」と言うスティーヴ。
だが、アルフレッドは携帯電話の番号を教えてくれれば、また連絡するからと言う。
スティーヴはアメリカとイギリスでは規格が違うから…とやんわり断るが、「じゃあ自宅の番号を」と食い下がるアルフレッドに、アシスタントの番号にかけてくれれば連絡できるから、とスティーヴは洗うフレッドの頼みをかわす。
「自宅の番号はくれないのか?」と言うアルフレッドに「断っていいか? 人には電話番号を教えないようにしているんだ。自分のスペースを確保するために必死にルールというか主義を守ってるんだよ」とスティーヴは力説、「サム・メンデス監督にも教えなかったんだ」とまで言い訳するのだった。
アルフレッドの顔はみるみる曇り、「サム・メンデスでダメなら仕方ないな…」とあきらめる。
そこで、アルフレッドの携帯が鳴った。
「助かった!」という表情になるスティーヴだが、アルフレッドは、どうやら著名な映画監督と話しているとわかり、スティーヴは「なんだって?」という感じで反応する。
アルフレッドはスパイクと一緒に映画を制作しているようで、今度の日曜日に会うようだ。
「今のはスパイク・リーなのか?」とすかさず尋ねるスティーヴ。
「いやいや、彼とは面識なんてないよ。スパイク・ジョーンズだ」と答えるアルフレッドにスティーヴは「スパイク・ジョーンズ? 俺はファンだよ!」と伝える。
アルフレッドはスパイク・ジョーンズとは長いつきあいで、ハイキング仲間でもあるという。
スティーヴは「電話番号のルールだがバカだった。やめるよ」と前言撤回し、「今電話番号を教えたら失礼かな…」とアルフレッドに聞くと、「ああ」とアルフレッドは呆れた様子。
そしてアルフレッドは「じゃ失礼。僕はこれで」と席を立って、行ってしまった。
スティーヴは「ドジった!」とだけ、一言…。

幻覚

RZAと待ち合わせしているGZA。
RZAは、友人の子どもの往診に行かなければならなかったため遅れてしまったのだという。
なんとRZAは代替医学をとってもう2年になる“医者”で、電気ドリルでやる手術も習得したのだと話す。
「DJって仕事柄、手先は器用だし、音楽と医学は一緒だ」と語るRZA。
2人は紅茶を一緒に飲むことにする。


「カフェインなんか摂ったら毒だからな。カフェインは気分が落ち込むし、イラつくし、心臓がバクバクなってしまうし、お腹も下してしまう」と2人は紅茶で乾杯。
そこに、コーヒーポットを持ったウエイターが「コーヒーのおかわりは?」とやってきた。
「カフェインはいらない。カフェインは幻覚を起こす」と2人がおかわりを断ると、ウエイターはそのコーヒーポットから直接コーヒーを飲み始めた。


ウエイターはビル・マーレイで、それに気づいた2人が「俳優のビル・マーレイか!?」と尋ねる。
「ああ、そうだが…ここだけの話に…」とビル・マーレイは2人の席に座る。
「君たちは…親戚?」とビルは2人に尋ね「いとこさ。家族だよ」という答えをきくと「からむわけだ!有名な問題児、ウータン・クランだ」と、ヒップホップにも詳しいことを見せるビル。
「で、あんたはビル・マーレイ」と返されて、「内緒だ」と念を押すビルだが「でもその恰好だと一目瞭然じゃん。変装でもしなよ」と言われる。
「してるつもりなんだけど…」とまたコーヒーポットからコーヒーを飲むビルを見て、「カフェイン中毒だ」と言うGZA。
GZAもかつては毎晩コーヒーをガンガン飲んでいたが、寝る前に飲むと夢がインディ500を車から撮るみたいに猛スピードで飛んでいくんだと話す。
ビルはタバコに火をつけて吸いながら、コーヒーに棒を差して凍らせてコーヒー・アイスにするやつもいる、と言い、大きい咳をする。
「ニコチンで神経も呼吸器もイカレしまう。ひと吸いごとにマヒするんだ」とタバコの弊害についても語るRZA。
ニコチンは殺虫剤にも使われているということを聞き、「ならいいもんだろ」ととんちんかんな答えをするビルは、再度「頼む。僕のことは誰にも言わないでくれ」と2人に念押しする。
「ビル・マーレイ、あんた逃亡中なのか」と聞かれ「ああ、そんなとこだ。でも幻覚かもしれない…」と答えるビルに「こりゃ重症だ…」と言いながら、GZAは「逃亡中のあんたにお助けグッズがあるぜ。これだ」と何かが入ったトートバッグを渡した。
そこでまた咳をし、RZAにどうにかしてくれ…とビルが頼むと、消毒用の過酸化水素と水を1:1で混ぜてうがいをするようにとRZAは教える。
「でも、絶対に飲むなよ」と言うRZAに付け加えるように「それがダメなら食器用洗剤を使え」と言うGZA。
「ありがとう、すぐ試すよ」とビル・マーレイは席を立った。
会計をして店を出ようとした2人に、遠くからうがいの音が聞こえてくる…。
「洗剤でうがいを???」と驚いて「とっととズラかろう」とRZAとGZAはあわてて店を出た。
うがいの最後、吐き出すのではなく飲み込んでしまったような音が聞こえるのだった…。

シャンパン

2人の老人が小さいテーブルでコーヒーを囲んでいる。
「大丈夫か?」「そうでもないな…」と話す2人。
そうでもないと答えた老人テイラーは「世界から置き去りにされた気分だ…世間から忘れられて…」と宙を仰ぎ見ながらつぶやき、ビルに「マーラーの曲を知ってるか?『私はこの世に忘れられ』を…」と尋ねる。
ビルは「知らない」と答えるが、テイラーはさらに「世界で最も美しくて物悲しい曲だよ。聞こえるか?」と、片手を耳に添える。
ビルも、手を耳に添えて聞き耳を立てると、どこからともなく美しい調べが聞こえてきた。
だが、その音楽は途中で聞こえなくなってしまい、テイラーは残念がる。
「ここはどこだ?」と尋ねるテイラーに「武器庫だ、テイラー」とジムが答えると、テイラーはその文言を繰り返して「なんだか重々しい響きだな…」と笑うのだった。


ジムが「ニコラ・テスラは、地球を1つの大きな共鳴伝導体だと考えた」とつぶやき、どういうことか説明してくれとテイラーに頼まれるのだが、「ムリだ」と一蹴。
そこでテイラーは「コーヒーをシャンパンだと思って、人生を祝おう。金持ちの上流階級がするように。優雅にいこう」と提案するのだが、ビルは「俺は労働者階級の普通のコーヒーが好きだ」と返す。
そんな答えに対して「ヤボなやつだ。お前は人生を楽しむってことを知らないな…」とテイラー。
「こんなまずいコーヒーがいいなんて…」と言うテイラーに、一口飲んで「本当だ、まずい」というビル。
「じゃあ、乾杯といこう。20年代のパリに」というテイラーと「それと70年代後半のニューヨークに」というビルは紙コップのコーヒーで乾杯して、コーヒーを一口飲むと、口々に「絶品だな!」「シャンパンよ、神々の酒…!」と感嘆の声をあげた。
「昼飯はコーヒーとタバコだけか? 体に悪いぞ」と言うテイラーは「昼飯は食ったぞ。ここには休憩にきたんだ」と諭され、「がっかりだ」と言うテイラー。
休憩は10分ほどで、もうそろそろ終わってしまう。
「おれはひと眠りするから、休憩が終わったら起こしてくれよ」とテイラーは少しうつむいて静止する。
「ひと眠りと言っても、あと2分しかないぞ」とジムは言い、一呼吸おいて「テイラー」と何度か呼びかけるも、テイラーは静かに少しだけうつむいて座ったまま動かない…。

まとめ・感想

監督のジム・ジャームッシュ本人が、観客へのメッセージとして「コーヒーでも飲みながら気軽にみてね」と語った、ゆるゆるリラックスムービーのこちら。
公開当時、私はこの監督自身の言葉にいたく感動しました。
映画というものは、何かしらのメッセージや想いがこめられているもので、製作に携わった人や監督は、メイキングなどでも仰々しく作品を語りがちです(それが悪いとは言わないし、大切なことなんだけれど)。
でも、監督自身が、これから映画を観ようとしている人たちに「何も考えずにリラックスして観てね」という、シンプルで短い言葉をかけることって、めったにないことだと思うんです。
この映画の空気感やウィット、ユーモアを、肩肘張らずに享受してほしい、という意味合いでのメッセージなのだということだと思いますし、実際にゆるーい気持ちで観ないことには、この映画を本当に楽しめないと思っています。
かつ、映画が好きで、皮肉が好きで、シュールな世界が好きな人ではないと、反対にちょっと難解な作品になってしまうかもしれません…。

こちら、1本の映画ではなく、実は11本の短編をまとめた作品です。
ジャームッシュ監督が断片的に撮ってきた作品をまとめたもの、と言った方がしっくりくるかもしれません。
コーヒー(時々紅茶)とタバコを取り囲む2人から3人の登場人物が繰り広げる会話とエピソードは、どれもこれもどこか噛み合わず、観ているこっちがハラハラしてしまう雰囲気もあって、全編とおしてそこはかとなく漂う場末感が、この作品を強烈なものに仕立て上げている印象です。
さらに言うと、コーヒーがテーマの映画にもかかわらず、どのコーヒーもまったくおいしそうに見えないという不思議(笑)。
ほとんどのエピソードで、コーヒー(もしくは紅茶)のカップをカチンと合わせて乾杯するシーンがあるのですが、これもまたデタラメなタイミングでされることが多々。
シュールすぎて、反対にこの世界にドハマりすること請け合いです(私は見事ハマってしまって、DVDまで買って収蔵しております)。
特に感動するわけでもなく、どちらかというとほとんどが呆れてしまうエピソードばかりなのですが、クスっと笑ってしまうそのユーモアがクセになるわけです。

しかも、出演している俳優陣がとっても豪華なことも、映画ファンとしては見逃せないところ!
『ライフ・イズ・ビューティフル』でオスカーも取ったロベルト・ベニーニにはじまり、個性派俳優のスティーヴ・ブシェミ、大物歌手であるイギー・ポップとトム・ウェイツ、『ホワイト・ストライプス』のジャックとメグに、なんとケイト・ブランシェット、さらにビル・マーレイまで!
多種多様な俳優陣(&ミュージシャン陣)の演技を見られるだけでもお宝レベルだと思います。
私個人的には、イギー・ポップとトム・ウェイツの『カリフォルニアのどこかで』に一番ハラハラドキドキしました。
だって、そもそもあのイギー・ポップが演技するなんてありえないし(笑)、終始トム・ウェイツのペースに飲み込まれてしまうイギーの滑稽さがたまりません。
さらに言うと、トム・ウェイツは30歳手前で禁煙していたのに、この作品に出演することでタバコを吸ってしまって、再度禁煙しないといけなくなるという厳しい現実に直面したそうです(自業自得のような気もするけど)。
もう1つ、1人2役を演じる、ケイト・ブランシェットの演技が圧巻の『いとこ同士』というエピソードも必見ですね。
まるで正反対のいとこ同士を見事に演じ分けるケイトの力量がくっきりと表れた傑作です。

この映画のあらすじ…というか、本編の説明を文章で呼んでも、この雰囲気が10%も伝えられないのが悲しいところ…!
独特の言い回しや間、さらには映像の構図やそのインテリアといった雰囲気に、各エピソードで使われている音楽にまで、どっぷりと浸からなければこの作品の良さは分からないのです。
どこか、ジャームッシュ流の落語を見ているかのような錯覚にも陥ることができるこちら、シュールでどこかポップな秀作を、ぜひコーヒー片手にご覧になってじっくり味わってください!

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